ミル・マスカラス
愛と宿命のルチャ

1998/08/12 ユニジャパン試写室
メキシコ・プロレス界のスーパースター、ミル・マスカラス出演作。
レスラー同士の友情を描いた物語。。by K. Hattori


 ルチャ・リブレと呼ばれるメキシカン・プロレスは、派手なマスクを付けたルチャドールと華麗な空中戦が見もの。その世界でトップクラスの人気を誇っているのが、ミル・マスカラスとドス・カラスの兄弟レスラーだ。映画『ミル・マスカラス/愛と宿命のルチャ』は、そのマスカラス兄弟が出演したプロレス映画。メキシコでは伝統的に、人気レスラーがそのまま映画スターになる例が多いらしく、マスカラスより1世代前の人気レスラー、エル・サント主演の映画は48本も作られ、マスカラス自身も20本以上の映画に出演しているといいます。1988年の製作なので、もうかれこれ10年前の映画ということになる。数多いマスカラス出演作の中で、なぜこの映画が今回日本公開されることになったのか、その理由が今ひとつ判然としない。ひょっとして、この映画が一番できがいいのだろうか。

 物語の方は、ほとんど梶原一騎の「プロレス・スーパースター列伝」みたいな浪花節世界。1960年のメキシコでいつもタッグを組んで戦う、セルヒオとホエルという親友同士のレスラーがいた。彼らは互いの子供の名付け親になるなど、家族ぐるみの付き合いをしている。だが、腹黒いプロモーターやジムのオーナーは、この人気コンビを戦わせたくてしょうがない。戦いを拒んでいたふたりだったが、世界タイトル戦出場をかけた試合で、ふたりはついに戦うことになる。死力を尽くした戦いの末、ホエルは不幸にも息を引き取り、セルヒオも熱狂的なファンに撃ち殺されてしまう。ここで物語は折り返し地点。上映時間もここでちょうど半分です。

 後半は、セルヒオとホエルの子供たちが成長して、父親と同じようにレスラーになり、やがてリングで戦うという物語になる。このあたりから話自体はグズグズになってしまって、見せ場はもっぱらプロレスの試合ばかり。ミル・マスカラスが本人役で登場して、貫禄十分な試合を見せるのが面白いぐらいかな……。この映画は物語の前半と後半がくっきりと分かれていて、何だか中途半端な2本立ての映画を見ているような気になってしまう。親子2代に渡る友情と葛藤のドラマを、すっきりとまとめる方法はなかったのだろうか。互いの父親の悲劇を息子たちが乗り越え、最後はまたがっちりと握手して新たな友情を誓い合う展開になぜならないんだろう。

 ルチャ・リブレはリングを縦横に使ったスピーディーな展開が特徴なのに、この映画では試合のシーンになるとハイスピード撮影を多用して、せっかくのスピードを殺してしまう。レスラーたちが全員、スローモーな動作で技を掛け合う様子は、芝居の立ち回りを見ているようで「実戦」の迫力がありません。リングの中にあると言われる『ルチャの真実(原題)』も、これじゃ馴れ合いに見えてしまう気がする。試合の場面は実際の試合を撮影しているので、あまり凝った演出やカメラワークができないのでしょうが、せめて練習シーンだけでも、もっと迫力のある映像に仕上げてほしかった。

(原題:LA VERDAD DE LA LUCHA)


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