地球は女で回ってる

1998/07/28 松竹第1試写室
男のエゴをユーモアタップリに描くウディ・アレンの最新作。
しゃれたタッチの大人の映画です。by K. Hattori


 『誘惑のアフロディーテ』では優しい娼婦の登場する古典的ロマコメを作り、『世界中がアイ・ラヴ・ユー』ではミュージカル・コメディを作ったウディ・アレンが、久しぶりに「ウディ・アレンらしい」才気闊達なコメディ映画に帰ってきた。前の2作が悪いってわけじゃないけど、『アニー・ホール』や『マンハッタン』の頃のひねくれたプロットや男女関係の機微みたいなものこそウディ・アレンの真骨頂だと思っていた人に、最近のアレン映画は物足りなかったと思う。

 今度の映画は、自分の私生活をモデルに小説を書く作家が、過去3回の結婚や恋人たちとの関係を回想するという物語。現在進行形のドラマと、劇中で演じられる小説の一場面や回想シーンが巧みにコラージュされ、主人公の人物像をどんどん掘り下げて行く。主人公の作家を演じるのは当然ウディ・アレン本人だから、いったいどこまでが本心で、どこからが演出なのかさっぱりわからないところがミソ。これはアレンの芸ですね。

 メインの筋に織り込まれて行く小さなエピソードの数々は、セックス・コメディあり、ホームドラマあり、ファンタジーあり、ブラック・コメディありで、元来ユーモア作家としての顔も持つウディ・アレンらしい小話集。わずか1時間半ほどの映画なのに、物語の密度はすごく濃くて、映画3本分ぐらい楽しめます。出演者も例によってすごく豪華。ジュディ・デイビス、デミ・ムーア、エリザベス・シューなどが全員、アレン扮する主人公と関係がある女性たちで、ビリー・クリスタルが親友役で登場し、スタンリー・トゥッチとロビン・ウィリアムスが小説の登場人物として出演。中でもウィリアムスは、「常にピンボケの映画スター」という変わった役柄なので、劇中でも声はすれども姿はボケボケ。オスカー俳優にこんな役を振るなんて、今はウディ・アレンぐらいしかできませんよ。すごく贅沢です。そうそう、『マンハッタン』のヒロインだったマリエル・ヘミングウェイも脇役で少しだけ出演してます。

 「僕は結婚に向いてないんだ。でもひとりでいるのは寂しい」と言う、主人公の心境が切実。別れた恋人が結婚すると聞いてうろたえるのも、なんだか自分のことのように同情してしまった。僕も年取ったのかな……。

 相変わらずジャズが効果的に使われてます。エリザベス・シューのテーマ曲が、僕も大好きなジェローム・カーンの名曲「オール・ザ・シングス・ユー・アー」。ジュディ・デイビスとの逢引でかかる曲は、アステア&ロジャース映画の名曲「ザ・ウェイ・ユー・ルック・トゥナイト」。クライマックスのパーティーシーンでは、ロジャース&ハートの「アイ・クド・ライト・ア・ブック」がかかる。でも一番驚いたのは、主人公と息子と娼婦と友人の4人でドライブしている場面で、アル・ジョルスンの懐メロ「ウェン・ザ・レッド・レッド・ロビン・カムス・ボブ・ボブ・ボビン・アロン」が使われていること。なんつーか、楽しい親子関係ですな!

(原題:Deconstructing Harry)


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