ダイヤルM

1998/06/30 よみうりホール
ヒッチコックの『ダイヤルMを廻せ!』を現代NYを舞台にリメイク。
それなりの映画だが、ミステリーとしては二流。by K. Hattori


 ヒッチコックの映画で有名な『ダイヤルMを廻せ!』のリメイク作品。実際には、ヒッチコック映画の原作である舞台劇を、再度映画化したものだ。僕は原作の舞台も戯曲も見ていないが、ヒッチコックの映画は努めて舞台劇作品をそのまま映画化しようとした作品なので、シナリオなどもほぼ原作に沿っていると考えていいと思う。つまり、ヒッチコックの映画こそ「原作」というわけだ。ヒッチコック版ではあえて「舞台劇風の演出」をしていましたが、この『ダイヤルM』は、もっと普通のサスペンス映画になっています。今回の映画は、原作にある「妻の遺産を狙って夫が殺し屋に妻の殺害を依頼するが、妻は逆に殺し屋を殺してしまう」というアイデアを核に、ヒッチコックの映画作品とはまったく別の映画を作り出している。僕はそれなりに楽しめました。

 この映画はヒッチコックの映画と比較して論じるような作品ではありません。作品の内容も、演出スタイルもまったく異なりますから、比較のしようがない。この映画では、わざとヒッチコック風の演出にならないように努力しているフシさえあります。ヒッチコックはサスペンス映画の教科書ですから、同じような物語からごく普通に演出のプランニングをすれば、まず間違いなく最初に思い浮かぶのが「ヒッチコック風演出」になると思う。この映画ではそうした演出の第1案をすべて捨て、常に第2第3のアイデアを使うようにしているのでしょう。

 お話としては、妻の浮気を知った夫が、妻の愛人その人に彼女の殺害を依頼するという筋立てがユニーク。命を狙われる人妻エミリーに扮しているのは、最近出演作がすごく多いグウィネス・パルトロウ。その夫にマイケル・ダグラス。妻の愛人である画家にヴィゴ・モーテンセン。ヴィゴ・モーテンセンは『G.I.ジェーン』の鬼軍曹も良かったけど、今回はロマンチックな役柄もできるところを見せてます。『インディアン・ランナー』の頃より、俳優としての厚味が出てきました。

 原作では彼女が殺人罪に問われ、死刑判決を受けてしまう。事件の真相を解明することだけが、彼女の命を救うことになるのだという緊迫感が、物語の後半を引っ張りました。今回の映画では、殺し屋を殺したエミリーにあっさりと正当防衛が認められて無罪放免になります。こうすることで、後半の謎解きの主役を彼女自身に割り振ることが可能になるのですが、彼女が自由の身である分、映画の持つサスペンスは薄れたと思う。せめて彼女が殺人犯ではないかと執念深く追求する刑事でも登場させ、彼女をもっともっと追いつめてほしかった。

 エミリーのキャラクターを国連で働くキャリアウーマンにしたのは面白いけど、それが物語の中でまったく生かされてません。刑事と外国語でしゃべるぐらいじゃ、何のための彼女の才能だかぜんぜんわからない。これに限らず、この映画には脚本段階でいくつか問題があります。それを指摘するとネタバレになるのでやめておきますが、後から考えて腑に落ちない点は多いですよ。

(原題:A PERFECT MURDER)


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