CUBE

1998/06/23 徳間ホール
危険な殺人キューブに閉じ込められた男女6人の運命は?
ビジュアル・センス抜群の新感覚スリラー。by K. Hattori


 目が覚めると、そこはキューブの中だった。一辺約5メートルの正方形の箱。6つの壁面には、それぞれ人がひとりくぐれる程度のハッチがひとつ。ハッチを開けると、そこは別のキューブへとつながっている。いったいここはどこなのか? 何のために、自分はこの小さなキューブの中に閉じ込められているのか? 答えを探すため、人は行動を開始する。キューブから別のキューブに移動し、そこからまた別のキューブへと、出口を探す移動の繰り返し。だがキューブには、人を死に至らせる残酷な罠が仕掛けられているのだ。罠を避けつつ、無事に脱出するためにはどうすればいいのだろうか?

 「オーヴァージャンル・ゲームムービー」と銘打たれた、まったく新しいタイプのスリラー映画。これはSFであり、サスペンス映画であり、犯罪映画であり、脱獄映画であり、スプラッタ映画であり、人間ドラマでもある。あらゆるジャンルの映画にまたがりながら、「出口を探す」という単一の目的のために、知力と体力を駆使するゲームのような物語。監督・脚本のヴィンチェンゾ・ナタリは、『JM』のストーリー・ボードを書いていたこともあるカナダの若手映画監督。長編劇場映画は、これが最初になる。登場人物が全部で7名、セットはキューブが1個半、残りはCGという、シンプルな映画。製作費が日本円にして約5千万円というのは、カナダ映画としても低予算だ。

 密室に閉じ込められた人間たちの葛藤の中で、疑心暗鬼や殺意が高まって行くというアイデアそのものは、別段新しいものではない。立体パズルのような迷路というアイデアも、以前にマンガで見たことがあるので新しいとは思わなかった。この映画のユニークさは、何といってもその美術造形センスにある。キューブの壁面に描かれた幾何パターンや、登場人物たちの没個性的なコスチューム、キューブの外壁、次々登場する罠のアイデアなど、主としてビジュアル面でのアイデアが面白い。妙に透明感のあるセットデザインには、アメコミや日本のマンガより、ジャン・ジローなどフランスのコミック作家からの影響が強く見られるような気がする。

 人間関係のアイデアは決して新しくないが、各人物とも十分に描き込まれている。この映画の中では、人間の性格が持つ裏と表の要素が丹念に描かれている。例えば、危機に際してリーダーシップをとる人物は暴君のように振る舞いがちだし、他人に対する優しさが優柔不断さや全員に対する生命の危機を生み出す可能性がある。自分の能力に対する過信が自分を滅ぼし、利他的な行動が共倒れを生む皮肉めいたストーリー。特定の主人公がいないと映画に入り込めない人には、ちょっと苦手な映画かもしれません。この映画は、ある人物に自分を仮託するのではなく、登場人物たちと一緒になって脱出口を探すサスペンス映画なのです。

 監督はまだ29歳。こんな作品を観せられると、次回作が楽しみでしょうがない。

(原題:CUBE)


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