シークレット
嵐の夜に

1998/06/16 GAGA試写室
シェイクスピアの古典悲劇「リア王」を現代アメリカを舞台に翻案。
主演はジェシカ・ラングとミシェル・ファイファー。by K. Hattori


 シェイクスピアの「リア王」を下敷きに、現代アメリカの大農場が没落して行くさまを描いた物語。アイオワに1000エーカーの大農場を持つラリー・クックには娘が3人いる。相続税対策として農場を株式会社にし、娘3人に権利を3等分しようとしたラリーだったが、末娘のキャロラインがそれに難色を示したことに憤慨し、農場は2等分され長女と次女に譲られる。しかし生きがいだった農場経営から離れたラリーはすっかり気難しくなり、やがて「娘たちに農場を奪われた」という被害妄想を抱くようになる……。

 ジェーン・スマイリーの原作小説「大農場」は1992年に出版され、ピュリッツアー賞を受賞している。単純な古典の翻案ではなく、シェイクスピアの原作では悪役とされているリア王の長女と次女を主人公にしているのが特徴。王国の支配者である父親を追い出し、国土を二分した彼女たちの心の中には、いったいどんな思いがあったのか。映画は彼女たちの父親への愛情と、姉妹の信頼関係、家族の絆……。原作小説を読んでいなくても、「リア王」のあらすじを知っていれば展開は全部読めてしまう。当然、製作者側もそんなことは百も承知。映画は単に「シェイクスピアを現代に移し替えました」というアイデアだけでなく、プロットを古典に借りて、中身はきちんと現代家族の物語に生まれ変わっています。

 出演者が超豪華。長女ジニーにジェシカ・ラング。次女ローズにミシェル・ファイファー。最後に父親を引き取る末娘キャロラインにジェニファー・ジェイソン・リー。そして、リア王にあたる農場主ラリー・クックに扮しているのは、大ベテランのジェイソン・ロバーツです。監督は『キルトに綴る愛』のジョセリン・ムーアハウス。脚本は何本かのジェーン・カンピオン作品にも参加し、『オスカーとルシンダ』が間もなく公開されるラウラ・ジョーンズ。女性の視点からシェイクスピアを再解釈したこの作品では、原作・脚本・監督・主演が、すべて女性で占められていることに気付きます。

 主人公ジニーとローズが父親を疎ましく思う理由が、映画の中盤で明らかにされると、この映画は完全にシェイクスピアの古典を離れてゆく。物語の展開は後半になっても全部シェイクスピアなのですが、テーマは娘に捨てられた父親の悲劇から、父親を捨てたくても捨てられない娘たちの悲劇へと置き換えられる。ジニーとローズが胸のうちに秘めていた、父親との過去。ジェシカ・ラングとミシェル・ファイファーの芝居が素晴らしい。ラングはこの演技で本年度のゴールデン・グローブ賞にノミネートされていますが、それを受けて立つファイファーの演技も、ここ数年の彼女の映画の中ではベストのものだと思います。とにかく、見応え十分です。

 試写の案内をもらった段階では、タイトルが『サウザンド・エーカーズ』だったのですが、今日試写室に行ったら『シークレット/嵐の夜に』になってました。こんな邦題で客が入るのか? 再検討を望みたい。

(原題:The Thousand Acres)


ホームページ
ホームページへ