キャラクター
孤独な人の肖像

1998/06/15 シネカノン試写室
今年のアカデミー外国語映画賞を受賞したオランダ映画。
憎しみあう親子をめぐる人間ドラマ。by K. Hattori


 今年の米国アカデミー賞外国語映画賞を受賞したオランダ映画。1910年代から30年代のロッテルダムを舞台に、ひとりの青年と父親の愛憎関係を綴った人間ドラマです。冷徹な強制執行官のドレイブルハーブンは、住み込み女中のヤコバと1度だけ関係を持ち、その数ヶ月後、妊娠した彼女は姿を消します。やがて彼女は男の子を出産。これが物語の主人公ヤコブ=ヴィレム。彼女の行方を探し出したドレイブルハーブンは、幾度も彼女に結婚を申し込みますが、彼女は断固としてそれを拒絶して一生独身を貫きます。一方、成長したヤコブ=ヴィレムは父親の存在を知り、何かと彼に対抗意識を燃やす。父親の方も息子の前に立ちふさがり、主として経済的な圧力を加えて彼を苦しめます。映画はこの奇妙な父子関係を中心に、主人公と母親との確執、勤務先の法律事務所で出会った彼の支援者のはげまし、同僚女性に抱いた淡い恋心、若い共産主義者との友情などをからめて行く。

 物語は現在から過去を回想するという形式になっている。20数年に渡る主人公の人生から、要所をかいつまんで描くにはいい方法です。この映画のもうひとつのアイデアは、主人公が父親殺しの容疑者として逮捕され、刑事たちの前で、自分と父親との数奇な関係について語るという形にしていること。これによって、物語にはミステリー風の味わいが生まれるし、父子の関係も常に「死」を意識した暗い緊張感に満ちたものになる。この映画の原作となった小説は、オランダではかなり有名なものだそうですが、映画にあるミステリーの要素は原作にはないそうです。こうした尋問による人生回想形式は映画の中で特別ユニークなものとは言えませんが(例えばルビッチの『天国は待ってくれる』が同形式)、原作を映画化するにあたって、このスタイルを思い出した点は評価すべきでしょう。監督・脚本のマイケ・ファン・ディムは、この作品が長編デビュー作。すごい新人です。

 登場人物が憎しみあいながらも数十年の時を共有するという物語を観ていて、木下恵介の『永遠の人』をすぐに思い出しました。『永遠の人』では男に犯された女が犯した男と結婚し、その後数十年を憎しみを抱えながら生き続けます。ヤコバとドレイブルハーブンが結婚していたら、『永遠の人』になってしまうのかもしれない。

 登場人物のキャラクターが、どれも非常に奥行きのある人物に仕上がっています。これは脚本の巧みさもありますが、演じている役者たちによるところも大きい。特にドレイブルハーブン役のヤン・デクレールは、少ない台詞を体の動きや目の表情で補いながら、この怪物のような人物を存在感たっぷりに演じきっています。最初は血も涙もない冷血漢に見えた人物が、物語が進むにつれて少しずつ人間らしい喜怒哀楽を感じさせる構成の妙。導入部と終幕で同じシチュエーションを演じつつ、演技の中身をガラリと変えてみせるすごさ。主人公役のフェジャ・ファン・フェットや母親役のベティ・スフールマンも上手いけど、デクレールには及びません。

(原題:KARAKTER)


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