変人たちの晩餐会

1998/06/13 パシフィコ横浜
(第6回フランス映画祭横浜'98)
広い会場が揺れるように全員で爆笑した最高のコメディ映画。
これは文句なしに面白い。最高です。by K. Hattori


 これほど笑った映画は、今年に入って初めてかもしれない。正確に言えば、ここ数年間でこんなに笑った映画はありません。金持ちたちが毎週水曜日の夜に開いている特別な晩餐会。それはメンバーが見つけだした「バカ」を持ち寄り、最高のバカを決めるという「バカたちの晩餐会」です。出版業を営む主人公ピエール・ブロシャンも、この晩餐会のメンバー。彼の趣味は世間に隠れているバカを物色し、本人にそれと知られないように晩餐に招くこと。今回彼が見つけたのは、マッチ棒で精巧な模型を作ることが趣味の「模型バカ」、税務署勤務のピニョンという男です。ところがピエールはゴルフの最中に腰を痛め、しかも妻が家を出ていくという事件まで起こり、とても晩餐会どころの騒ぎではなくなってしまう。はりきって家にやってきたピニョン氏を追い返そうとするのですが、不足の事態が次々に起こってそれもできず、彼は悪夢のような一夜を過ごすことになる……。

 笑いの質としては、日本の寅さん映画に近いかもしれない。ピニョン氏は偉大なるトラブルメーカーであり、聖なる愚者です。彼としては一所懸命に物事を進めているつもりだし、行動の動機はすべて善意なのですが、それが事態をますます複雑で入り組んだものにして行く。ピエールの落ちた場所は、本人にとってみればそれこそ笑い事ではない、人生最大の危機であり悲劇です。でもその原因は彼の人を馬鹿にした態度や、他人に対する不誠実から発しているので、観客は誰も彼に同情しない。悪党にとっての痛恨の悲劇は、観客にとって痛快な喜劇です。でもこの映画が素晴らしいのは、事件を通じてピエールが自分の欠点を悟り、まったく新しい人間として生まれ変わることでしょう。言ってみれば、これはピエールという性格破綻者(というほどの物ではないかもしれないが)にとって、格好の荒療治になっているのです。

 この作品はもともと舞台劇だったそうですが、その匂いは全体にくっきりと残っています。物語はピエールの家の居間を中心に進行し、それ以外の場所は少しずつしか出てこない。オープニングのいくつかのシーン以外は、電話の受け答えをカットバックで処理するなど、なんだか無理矢理カメラを居間の外に出しているようなところもあります。でもこうした舞台劇臭は、物語の進行につれて次第に気にならなくなってくる。役者同士のスピーディーな台詞の応酬があまりにも面白く、物語も二転三転を繰り返し、かたときも目を離せなくなるからです。

 この映画に登場するバカとは、知能が劣っているという意味ではありません。人間は何かに夢中になると、周囲が冷静に見られなくなり、第三者から見れば愚かとしか言いようのない行動をとることがある。それをバカと嘲るのは簡単ですが、どこの誰だって同じように愚かなバカになることはあり得るのです。人間はそうした自分の愚かさを自覚したところから、少しはマシな情況判断が出来るようになるのかもしれません。この映画からは、そんな愚かな人間への共感が感じられるのです。

(原題:LE DINER DE CONS)


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