ねじれた愛

1998/06/13 パシフィコ横浜
(第6回フランス映画祭横浜'98)
ユダヤ系フランス人でゲイの主人公が結婚するはめに!
米仏カルチャー・ギャップが面白い。by K. Hattori


 ホモのクラリネット吹きが、家名断絶を憂える親戚からの圧力と、「結婚したら財産をやる」という誘惑に屈して、ユダヤ系アメリカ人の女性と結婚する物語。主人公シモンもユダヤ系という設定で、彼が演奏する音楽はクレズマー(ユダヤの伝統音楽)。映画のBGMもほとんどがクレズマーになってます。彼が結婚する相手は、やはりユダヤ系音楽を専門に歌う歌手という設定。ふたりは音楽を通じて互いの理解を深めるのですが、いざセックスの方面になると……。監督はこれが長編第2作のジャン=ジャク・ジルベルマン。主人公シモンを演じるのはアントワーヌ・ドゥ・コーヌ。彼の結婚相手ロザリーを演じているのは、エルザ・ジルベルシュタインです。

 父から子へと伝えられて行くクレズマー音楽に監督が興味を持ち、「もし音楽を伝える子供が生まれなかったら……」というアイデアから、主人公をホモという設定にしたそうです。最近フランスからは、『ア・ラ・モード』『原色パリ図鑑』など、ユダヤ人コミュニティを描いた映画が相次いで日本に紹介されていますが、ユダヤ人社会を描く映画は別にブームになっているわけではなく、単なる偶然だろうとのこと。ただし、ユダヤ音楽に注目が集まっていることは事実でして、ドイツ映画『ビヨンド・サイレンス』にもユダヤ音楽が登場するし、アメリカのドキュメンタリー映画『キング・オブ・クレズマー』もあるし、内容やテーマに関係なく、ユダヤ音楽をBGMに使った映画も何本か公開されています。日本でもこれから、小さなブームになるかもしれません。

 僕自身も、この映画を「ユダヤ人コミュニティを描いた映画」や「ゲイ・ムービー」だとは少しも考えなかった。むしろピュアな恋愛映画だと思いました。パートナーに対する理解と尊敬だけで、はたして結婚生活は維持できるものなのだろうか。結婚と性的嗜好を分けて考えることができるものだろうか。そんなテーマが浮かんできます。普通の人でも、漠然と「好みのタイプ」というものが存在して、結婚相手もその範囲内で選ぶことが多いと思います。でもゲイの人が異性のパートナーを選ぶというのは、最初から「規格外」の相手と結婚することです。主人公シモンにとって、ロザリーははじめから恋愛の対象ではないし、相手をどれほど尊敬しようと、それは「恋」とは違うものだと思う。でもそんなふたりの関係が破綻した後になって、シモンは彼女に「恋心」を感じるのです。なんともほろ苦い幕切れです。

 テーマはシリアスなものですが、エピソードはどれもユーモラスで観ている間は笑いが絶えません。とくにシモンがニューヨークに渡って、厳格なユダヤ人社会に初めて接した時の反応は面白いし、その家の息子がゲイだと知ったときの当惑ぶりは抱腹絶倒です。ロザリーの家族たちが、厳格な父親に反逆する場面も腹を抱えて笑えます。ロザリーの家で露骨に異邦人(異教徒)扱いされていたシモンが、音楽を通じて家族にとけこんで行くシーンには、ユダヤ民族の本質が見えるようでした。

(原題:L'HOMME EST UNE FEMME COMME LES AUTRES)


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