たれ込み屋

1998/06/12 パシフィコ横浜
(第6回フランス映画祭横浜'98)
ベテラン刑事とたれ込み屋の奇妙なパートナー・シップ。
元警官が書いたリアルな脚本にしびれる。by K. Hattori


 アラン・コルノー監督の現代版フィルム・ノワール。内容的には「警察物」というジャンルになる映画でしょう。犯罪者たちを描くのでも、犯罪者と警察の対決を描くのでもなく、警察組織内部で生まれる矛盾や対立を描くのが主眼の映画です。この映画で描かれる警察の矛盾とは、「犯罪を捜査するには犯罪者の手助けが必要だ」という点。優秀な刑事は必ず馴染みの「情報屋」を持っていて、刑事はそこから得る情報を使って大きな犯罪を摘発し、情報屋は捜査のどさくさに紛れて何がしかのリベートを得る。こうした関係は日本のやくざ映画などにもよく出てきますが、この映画ほど情報屋と刑事の関係に肉薄した作品はなかったのではないでしょうか。この独創的な脚本を書いたのは、元警官というキャリアを持つミシェル・アレクサンドルと、監督のアラン・コルノー自身。おそらく犯罪捜査や情報屋の実体についての部分をアレクサンドルが書き、各キャラクターの掘り下げやサスペンス演出をコルノーが担当したのでしょう。情報屋を「いとこ」という隠語で呼ぶのが本当かどうかは知りませんが、こうした細部がじつにリアルです。

 映画はいきなり、ひとりの刑事の拳銃自殺で幕を開けます。彼は情報屋との関係を裁判所に追及され、汚職警官として逮捕されることを恐れて自殺したのです。彼が使っていたテディベアとの連絡を引き継いだのは、同僚刑事だったジェラール。彼は情報屋と組んで働くダーティーさにうんざりしながらも、いつしか彼を重要なパートナーとして認識して行く。

 情報屋テディベアを演じているのは、『ペダル・ドゥース』のパトリック・ティムシット。彼とコンビを組むジェラール刑事には、『ディディエ』のアラン・シャバが扮しています。彼らの映画を観たことのある人なら、このコンビの出演作と聞いただけで、これが面白い映画だってことがすぐにわかるはず。コメディ要素はないシリアスな作品ですが、普段コミカルな役を演じている人がシリアスな役を演じると、役に凄みが出るんだよね。この映画には他にも、刑事の妻役として『家族の気分』『恋するシャンソン』のアニエス・ジャウイが出演し、少ない場面ながら芝居に奥行きを出してます。この刑事夫婦の関係はマイケル・マンの『ヒート』を思わせるものがあるけど、それより遥かに上手いです。汚職刑事を摘発しようとする判事に扮しているのは、『うそつきな彼女』のマリー・トランティニャン。これは役者云々と言うより、この役を女性に設定した面白さでしょう。

 刑事たちがチームを組んで、犯人たちを尾行する場面のスピーディーな演出とリアリズムに感心しました。クライマックスは、アメリカ映画なら絶対に派手な銃撃戦にするところでしょうが、これはフランス映画なので抑制された演出になっている。全体にがっちりしたドラマ作りとリアリズムで、お子様向きでない大人の刑事ドラマに仕上がってます。日本公開は未定ですが、これはどこかに買い付けてほしいなぁ。高いのかしら?

(原題:LE COUSIN)


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