短編映画特集

1998/06/11 パシフィコ横浜
(第6回フランス映画祭横浜'98)
普段はなかなか観られない短編作品がそろうのは映画祭ならでは。
粒ぞろいの作品が勢揃いして見応えがある。by K. Hattori


 第6回フランス映画祭横浜では、6本の短編映画が上映された。すべてについて詳細な評を書くのはたいへんな作業になるので、上映タイトルと簡単な内容、短い感想だけを箇条書き風にまとめておきます。この手の映画は今後も日本で公開されることがまずないと思われますので、内容紹介に必要があればネタバレもしてしまいます。

『潜水服と蝶』(原題:ASSIGNE A RESIDENCE (LOCKED-IN SYNDROME))
 ジャン=ジャック・ベネックス監督による27分のドキュメンタリー作品。脳血栓から全身不随のLISという難病に陥った、雑誌「ELLE」の元編集長ジャン=ドミニク・ボービーが、わずかに残った左目蓋の動きを通して周囲とコミュニケーションをとり、身辺エッセイを綴る様子を描く。元部下と思われる女性編集者がアルファベットを順繰りに唱え、ここぞという位置にくると左眼を少し動かして合図する。こうしてアルファベットを1文字ずつ指示する気の遠くなるような作業を通じて、彼は外界に自分の意志を伝え、損なわれたのが自分の身体だけで、知性は以前と同じ人格であることを周囲に伝える。タイトルはボービーが出版したエッセイ集のタイトル。ただし今回上映されたのは英語版で、タイトルとナレーションが英語でした。全編ビデオ撮影。病院内での撮影という制約もあるのでしょうが、ベネックス監督によれば、これはあえてビデオ撮影にチャレンジしている面があるそうです。今後は長編劇映画もビデオ撮影してみたいと、意欲的に語っていました。

『気弱な英雄』(原題:CHAPEAU BAS)
 ひとりの老人が池で溺れそうになっている子供を助けるのに躊躇するうち、別の男が現われて子供は無事救出。ところがこの救援者が立ち去ってしまったことから、老人は近所の人たちから子供の命を助けた勇敢な人物として尊敬を集めるようになってしまう。彼がそれをどんなに否定しようとしても、周りの人たちは老人の態度を 「謙虚さ」と受けとめて取り合わない。居心地の悪さを感じた老人は、やがて思いがけない行動に出ることになるのだが……。子供たちの拾ってきた子猫、ポロシャツのボタンなど、なにげない小道具の使い方が見事。近所の人たちに英雄に祭り上げられ、あまりの盛り上がりぶりにそれを否定できなくなってしまう情況も自然だ。ところどころで、ホール全体が笑いに包まれていた。監督はエルヴェ・ロザック。上映時間は25分。

『コックとニワトリとマダムとその夫』(原題:LE CUISINIER, LE POULET, LA FEMME ET SON MARI)
 料理番組を見ながら鶏料理を作っている主婦が、番組の司会者に性的な幻想を抱き、料理を作りながらエクスタシーに達してしまうという話。料理という「手作業」の官能性に溺れる彼女は、極端な潔癖症の夫との生活から逃避するように、料理が生み出すエロチシズムの中に耽溺して行く。女性器に見立てられた鳥肉をオイルでマッサージし、ワギナに見立てた鶏のおしりの穴に指を突っ込み、最後はペニスにかたどられた挽肉を鳥肉に詰め、玉葱でふたをする。その瞬間、彼女自身はオルガスムスに達するのだ。最後にちょっとしたオチがある。監督・脚本はギョーム・ツンジーニ。上映時間6分30秒。

『サンマルタン運河』(原題:IL SUFFIRAIT D'UN PONT)
 監督は『ベルリン天使の詩』の主演女優ソルヴェイグ・ドマルタン。運河にかかる橋、歩行者用の鉄橋、鉄橋のほとり、運河を運行する遊覧船など、限定された場所に偶然集まった4組のカップルの再出発を描く縦走ラブストーリー。わずかな時間の合間に、倦怠期の夫婦は破綻を回避し、10年ぶりに再会した恋人たちは再出発を誓い、40年来の知り合いだった男女は人生の伴侶を見つけ、若い恋人同士はかたく抱き合い続ける。上映時間20分。

『インタビュー』(原題:L'INTERVIEW)
 往年の大女優エバ・ガードナーに単独インタビューすることに意欲を燃やすフランス人記者が、入念な準備と根回しの末、ロンドンの彼女の自宅を訪れるが、彼の期待は無残に打ち砕かれてしまう。監督サヴィエ・ジャノリが、実際に取材した記者から聞いた実話をもとにしている。モノクロ・17分。カンヌ映画祭で、短編部門のパルムドールを受賞した作品。記者が取材に出かける前夜、バーで期待に胸をふくらませている場面に、エバ・バードナーの歌う「Can't Help Lovin' Dat Man」がかぶさってくるところはゾクゾクした。インターホン越しのインタビューに愕然としながらも、用意された質問をこなして行く記者の失望した様子が痛々しい。映画に対する愛がベースにある作品。

『連鎖反応』(原題:RICOCHETS)
若い夫婦が田舎道をドライブ中、自動車がガス欠になって立ち往生。夫がガソリンを手に入れようと車から離れた隙に、臨月の妻はがらの悪い男ふたりにかこまれて、あわやレイプされそうになるのだが、その時突然の陣痛が彼女を襲う……。一連の出来事を通して、周囲に無関心だった夫は優しい男に生まれ変わり、ならず者たちは責任感に目覚めてゆく。監督はステファン・クレジンスキ。上映時間34分だが、やや冗漫に感じられる部分があるかな……。


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