友情の翼

1998/05/18 日本ヘラルド映画試写室
第二次大戦中のアイルランドにあった捕虜収容所の物語。
話は面白いが演出に冴えがない。by K. Hattori


 第一次大戦後にイギリスから独立したアイルランドは、続く第二次大戦では連合国側にも枢軸国側にも付かず、厳正な中立主義を貫いた。ここで問題になったのが、自国領土で捕えられた両軍兵士たちの処遇問題。何もしなければ、アイルランドは重要な軍事拠点として両軍の戦火にさらされる。厳正な手続きの後に捕えた兵士たちを返還したとしても、対立する側からは敵対国のレッテルを貼られかねない。そこでアイルランドは、自国内で捕えられた両軍の兵士たちを捕虜収容所に収容し、戦争終結まで抑留することとした。しかも、捕虜の待遇などで差別が一切ないことをアピールするために、連合国側の捕虜も枢軸国側の捕虜も、同じ敷地内にある別棟の捕虜収容所に集めて管理していたという。

 アイルランドはあくまで「中立」であって、両軍にとって敵対国ではない。捕虜たちの扱いもきわめて緩やかで、建物の中にはバーがあり、昼間の外出は自由、兵士たちには本国政府から給料まで支払われるという高待遇。しかしながら、収容所そのものは鉄条網で取り囲まれ、夜間は厳しい警備が付いている。飴と鞭を使い分けた、世にも不思議な捕虜収容所です。

 この映画の主人公マイルスは、イギリス空軍のパイロットだったが、ドイツ機に撃墜されてパラシュートでアイルランドに降下する。逮捕拘禁されて着いた先では、憎っくきドイツ軍捕虜たちと鉄条網ひとつはさんでの同居生活が待っている。そこには自分たちを撃墜したドイツ軍パイロット、ルドルフの姿もあった。鉄条網越しにののしりあうイギリス兵とドイツ兵。マイルスはアイルランド娘のマティと知り合い好意を持つようになるが、そこに現れたのは、憎んでも憎みたりないルドルフ。マイルスとルドルフは、マティをはさんで恋の鞘当てを繰り返す。だがやがて、ふたりの間には奇妙な友情が芽生えるのだった……。

 舞台になっている場所がユニークなわりには、物語そのものがユニークなものになりきれなかった残念な映画。全体の構成が平板で、めりはりに欠けているように思えた。導入部は本格的な戦争映画、前半は捕虜収容所の奇妙な日常と両軍捕虜たちの敵対関係が描かれ、やがて一時的な両軍の雪解け関係があり、終盤の脱走計画へと流れて行く。この構成だと、もっと山あり谷ありの演出にできると思うんだけど、この映画は語り口が下手糞すぎる。序盤の敵対関係に生々しさが乏しいし、クライマックスの脱走劇ではサスペンスの味が薄い。ユーモラスな描写がそれなりに生きているため、映画全体がほのぼのムードに傾きすぎて、いまいち迫力不足なのです。

 主演のビル・キャンベルは『ロケッティア』の頃の初々しさがすっかり消えて、ただのごつい男になっちゃいました。ルドルフ役のアンガス・マクファーデンも、なんだかぱっとしません。本作ではむしろ、主人公と同室のパイロット、ウィリアム・マクナマラの方が目立ちます。『コピーキャット』の犯人役だった人ね。

(原題:THE BRYLCREEM BOYS)


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