ジュリアン・ポーの涙

1998/05/18 メディアボックス試写室
突然現れた自殺志願の若い男に小さな町は興奮状態。
クリスチャン・スレーター主演作。by K. Hattori


 クリスチャン・スレーター扮するジュリアン・ポーという男が、田舎の小さな町にやってくる。町の外からやってきたこの男に、人々は興味津々。田舎町特有の警戒感は、猜疑心や敵意となってポーの上に注がれる。彼は麻薬の売人か、それともテロリストか、警察に追われる犯罪者、はたまた、誰かを殺そうとする異常者か。町のレストランで人々に取り囲まれ、町にやってきた目的をしつこく聞かれたポーは、彼が自殺を考えていることを告白する。この瞬間、人々の険しい表情は一変し、安堵と哀れみのないまぜになった表情に様変わり。敵意むき出しの町の様子は、今度は正反対の極端な優しさとなる。だれ彼となく世話を焼きにやってくる人々。毎日続く、贈り物攻勢。ポーが散歩をすれば、人々はその後をぞろぞろとついて歩き、窓の外にはいつも人だかり……。

 ポーの自殺を思い止まらせようとするかに見えた人々の行動の底に、どうやら単なる「善意」では済まされないものが見えてくる面白さ。ポーについてまわる人々や、ポーのホテルを遠巻きに眺めている人々は、彼が自殺する瞬間を見逃すまいと身構えているのです。ポーがどんな方法で自殺するか、いつ自殺するかは、町の人たちの噂の種。ポーの自殺日を当てるクジが売り出され、人々はこぞってそれを買っている。ポーの自殺予告は、町の人々に降ってわいた最大の「娯楽」なのです。ポーの散歩に付き合ってホテルの外にたむろしている人たちに向かい、彼が「今日は自殺しないから帰ってくれ」と言うと、人々は少し残念そうにぞろぞろ家路につく。

 主人公がなぜこの町にたどりついたのか、彼の旅の目的は本当に「自殺の場所を探すため」だったのか、そのあたりはよくわからない。海を見たいと言うくせに、この町はどう見ても山の中なのです。資料にはポーの台詞が『苦し紛れの嘘』だと書いてあるけれど、映画を見た印象では、彼の自殺志願はあながち全部が嘘というわけでもなさそう。テープレコーダーに自分の気持ちを録音して残そうとしたり、乗ってきた自動車のキーを捨ててしまったりしたのは、「死」に向けて自分を追い込んでいることに他ならないと思う。

 主演のクリスチャン・スレーターは、とげとげしさの残るチンピラ風の役を卒業して、最近は落ち着いた役が似合う「大人の役者」になってきました。ジュリアン・ポーの役も、5年前の彼なら絶対に似合わないと思う。身体から発散する若々しくエネルギッシュなパワーが、役柄を裏切ってしまうところだった。ところが今のスレーターは、そうした自分自身の持ち味を上手にコントロールすることができるようになっている。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』や『トゥルー・ロマンス』の頃から、一皮も二皮もむけた感じです。『オースティン・パワーズ』の警備員役があったから、彼の脱力演技に驚きはなかったけどね……。

 素直にキャスティングすると、この役はジョニー・デップの役だと思うけど、スレーターの成長ぶりは見もの。

(原題:Julian Po)


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