ニューヨーク デイドリーム

1998/04/20 徳間ホール
金城武とミラ・ソルヴィーノが主演するインディーズ映画。
ラストシーンの衝撃に口アングリ。by K. Hattori



 ウォン・カーウァイ監督作の常連で、日本でも『MISTY』や『不夜城』に主演している金城武と、現在タランティーノの恋人で、『誘惑のアフロディーテ』ではオスカーも受賞しているミラ・ソルヴィーノが共演したインディーズ映画。監督は韓国出身のテン・ウォンスク。'68年生まれという、若い監督のデビュー作です。なぜこんな小さな映画に、ソルヴィーノのようなトップスターが出演しているのか不思議ですが、じつはこの映画の企画段階から彼女に出演依頼しており、映画の準備中に彼女が勝手にスターになってしまったということらしい。彼女はそれでも義理堅くこの低予算映画に出演し、キュートな死神を楽しそうに演じています。

 死神にとりつかれ、あと12時間で死ぬと宣告された青年が、運命とどう戦うかという物語です。オープニングはモノクロのサイレント映画からはじまり、それが主人公の夢だったというオチになる。スタンダード画面がするすると広がってビスタサイズになるあたり、観ていて面白いと思いました。でもこの映画、面白いのはここまでなのです。この映画は「実体化した死神がすげ〜美女で、だらしない日本人青年がそれから逃げまくる」というモチーフを、シリアスなドラマにしている。信じられません。これは無謀というより、馬鹿です。これをコメディにしなくて、なにをコメディにしろというのだ。

 人生最後の1日だというのに、金城武扮する主人公ケンジは、ナンパしたドイツ人女性に振られ、ギャラリーで見かけたアジア系美女が白髪のジジイと付き合っていることにショックを受け、友達が目の前でひき殺され、街娼には気味悪がられる始末。以上の出来事が、非常にシリアスな語り口で綴られているから、観ている方は困ってしまう。もっとも困ったのは、最後に金城武が包丁で切腹してしまうこと。「日本人=切腹」という、なんともステレオタイプな連想だ。ここは笑うべきところではないのだが、あまりのアホらしさに苦笑した。

 作品を支配しているのは、「人間は定められた運命からは逃れられない」という投げやりな人生哲学。たったそれだけのことを描くために、1時間40分もかけるなよ。そもそも、僕には主人公が最後に自殺しなければならない理由が、まったくわからなかった。これは映画の中で、きちんと主人公を追いつめていないからです。まず第1に、主人公が死神を本物だと信じる理由が弱すぎる。「夢に出てきたから」「目の前であっという間に消えたから」というだけで、人は死神を信じるか? 彼が死神を信じるためには、死神が彼の目の前で誰かを殺してみせるのが一番。そうするチャンスは何度もあるのに、なぜこの映画ではそうしていないんだろうか?

 監督は韓国人なんだから、韓国人青年がニューヨークで自殺する映画を作れば良かったのです。たぶん監督は「追いつめられた日本人が切腹する」というアイデアに依存しているのです。日本人の切腹は、監督にとって必然かもしれないけど、僕は違和感しか感じなかった。

(原題:TOO TIRED TO DIE)



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