野獣の肖像

1998/04/08 ユニジャパン試写室
的場浩司主演の橋にも棒にもかからないヤクザ映画。
脚本が全然形になってません。by K. Hattori



 久しぶりに、橋にも棒にも引っかからない映画を観た気分です。製作・配給は新生日活株式会社。復活第1作の『愛する』といい、日活はこんな映画作ってたんじゃ、またつぶれるぞ。今度関連会社に元松竹専務の作った「チーム・オクヤマ」ができたことだし、そこから優秀な企画を大量に仕入れた方がいいね。

 的場浩司主演のヤクザ映画です。「人斬り鬼」と異名をとる武闘派やくざ鬼塚勇次が、ヒットマンから身を守るために、逆に相手を刺し殺す。その現場にたまたま出くわしたテレビ製作会社の女性スタッフ工藤純が、とっさに現場を撮影し、それがオンエアされる。逮捕された鬼塚が5年の刑期を務めて出所したとき、自分のいた組は敵対していた組に吸収合併されており、鬼塚の変える場所はなくなっている。鬼塚に兄弟分を殺された金田という男は、身内となった鬼塚にねちねちと圧力をかけて潰しにかかる。テレビスタッフの工藤純は、5年のうちにめきめきと成長し、今では業界内でも評判の女ディレクターになっていた。彼女は企業化したヤクザ社会に馴染めない鬼塚を主人公に、新しいドキュメンタリー番組を作ろうと考えていた。だが卑劣な金田の手は、そんな純や鬼塚の妻にまで及んでくる。鬼塚は再び「人斬り鬼」として、金田と対決することになる……。

 細かい欠点をあげてゆけばキリがないのですが、この映画の致命的な傷は3つある。第1に主演の的場浩司が常に肩に力の入った熱演ぶりで、観客が感情移入するスキがまったくないこと。ヤクザ社会の修羅場の中で、他人と面と向き合ったときに「人斬り鬼」の表情をするのはしょうがないし当然だと思うけど、彼はひとりで道を歩くときも、たばこを吸うときも、奥さんと話をするときも、いつも「人斬り鬼」のまんま。これはしんどいよ。ヤクザ映画に観客がのめり込むのは、自分たちと同じ弱さを持つ主人公が、義理人情や己の誇りのために命を投げ出す点にあるのではないか。この映画の「人斬り鬼」は、叩かれても突かれても痛そうな表情を見せない。こんな情感のないヤクザに、僕は魅力を感じません。

 第2の欠点は、主人公を破局に追い込んで行くプロセスに穴がありすぎること。例えば、カメラに撮られた鬼塚の事件は、もともとが正当防衛です。ヤクザだから厳しい判決が出たのだとしても、刺された相手もヤクザ。しかも、鬼塚を殺そうとしたヒットマン。これで丸々5年も鬼塚が刑務所に入るとは思えない。一度は替え玉を出頭させて刑を逃れようとした鬼塚が、なぜ取り調べや裁判で、自らの正当防衛を主張しなかったのか。また、事件の一部始終を目撃していた工藤も、なぜ正当防衛だと証言しなかったのか? これはすごく疑問が残るぞ。

 3番目の欠点は、やはり工藤のキャラクター。彼女が鬼塚に張り付いている「動機」が、僕にはさっぱりわからなかった。これは彼女なりの贖罪意識なのか? 僕には甘ったれたセンチメンタリズムにしか見えなかったです。細川直美は好きなんだけど、この役は大馬鹿者です。


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