ファイアーストーム

1998/04/03 20世紀フォックス試写室
ハウィー・ロング扮する消防士が大活躍するアクション映画。
素材はいいのに、脚本が安易すぎる。by K. Hattori



 アメリカの森林火災の際に出動する消防士の中で、エリート中のエリートと言えば、空からパラシュートで火災現場に降下し、取り残された人々の救出や消火活動を行う「スモークジャンパー」と呼ばれる人々だ。この映画では大活躍するスモークジャンパーも、実際には地味な仕事で、アメリカ国内でも存在や活躍がクローズアップされることはない。この映画の監督ディーン・セムラーも、脚本を読んではじめてその存在を知ったという。日本とはあまりにもスケールの違う話なので面食らいますが、スモークジャンパーは実在しており、映画の出演者たちは実際の訓練基地で実地研修を受けたそうです。

 森林火災に乗じて脱獄を企てる凶悪な受刑者たちと、それに巻き込まれたスモークジャンパーの活動を描くサスペンス・アクションです。せっかくいい素材をみつけたのに、何でもすぐに犯罪やテロリストと結び付けてしまうのが、最近のアメリカ映画の悪い癖。脱獄囚の話とからめずとも、スモークジャンパーたちの英雄的行動を描くことは可能だと思うのだが、スリルとサスペンスを高めるために、すぐに狂暴な犯罪者を登場させてしまう安直さ。しかもその部分に何の工夫も目新しさも感じられず、決まりきった格闘やカーチェイスが繰り返される。

 原生林の中に何度も降下している主人公と、海兵隊でサバイバル訓練を受けているヒロインが、凶悪な脱獄囚と森の中で戦うという筋立てです。森に慣れている主人公と、軍隊で戦闘訓練を受けているヒロインが、人数や火器の不足を知識と経験で補って戦う面を、もっとクローズアップすべきではないだろうか。地図の読み方、森の歩き方、火災への対処法など、武器がなくても主人公側が勝っている点はあるはず。そこをテコにして物語を進めれば、もっとサスペンスが盛り上がっただろう。

 脱獄囚側のキャラクターにも、もうひと工夫欲しかった。リーダー格のウィリアム・フォーサイスが、逃げている最中に次々仲間を殺してしまうのが解せない。隠し持っている金を誰にも渡したくないという理由はわかるけど、森の中で敵と戦っている最中に、貴重な味方の戦力をあえて削っていくのは不合理だ。リーダーの裏切りが脱獄囚の仲間内で疑心暗鬼を呼び、チームがばらばらになりかけたり、リーダーに対する反目が生まれるなど、彼の行動が何かドラマに結びついて行くならともかく、ひたすらデクのように殺されて行く脱獄囚も間抜けだ。

 映画のタイトルにもなっている「ファイアーストーム」は、大規模な火災現場で起こる暴風のこと。火災で熱せられた空気が上昇気流を生み、火災現場に外部から新鮮な空気を吹き込むと、爆発的な炎が竜巻のように地上を荒れ狂い、地上のもの一切を吹き飛ばし、燃やし尽くす。日本でも関東大震災の時に「火災旋風」で大勢の避難民が被害に遭い、東京空襲の際も隅田川の上を炎が走ったといいますが、この説明はもっと最初にやっとくべきでしょう。それをするのは『バックドラフト』の消防士役者、スコット・グレンの役目だと思うぞ。

(原題:FIRESTORM)



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