南京1937

1998/03/17 シネカノン試写室
南京大虐殺を描く歴史大作。プロデューサーはジョン・ウー。
内容的には観てすぐわかる嘘が多い。by K. Hattori



 日中戦争最中の昭和12年、南京陥落後に起きた日本軍による捕虜と民間人の虐殺、いわゆる「南京大虐殺」を、中国側の視点から映画化した作品。この「虐殺」については、戦争中の日本人はまったくその事実を知らず、戦後の東京裁判で犠牲者20万という数が出されて日本人は仰天した。この「犠牲者数」については、今も歴史学者の間で激しい議論が行なわれている。少ない方で2万から6万、徐々に多くなって10万、15万、20万、30万、35万、40万……。中国では犠牲者数35万人というのが歴史的な事実として確定しているらしいが、日本ではそれを事実無根とし「大虐殺はなかった」とする声も多い。とは言え、まったく「虐殺」がなかったという人はおらず、「大虐殺はなかったけど、小虐殺ぐらいならあった」という説が主流のようです。

 この映画は「中国人は南京事件をこのように見ておるのだな……」という資料としては意味があるかもしれないが、歴史教材としてははなはだ不適当な内容。普通に観ると、やはりこれは真っ赤な嘘もいいところなのです。この映画では、今まで数多くの本に述べられ、歴史的事実として活字になってきたエピソードの数々が映像化されていますが、活字では論証できたことを映像化したことで、かえって矛盾や不合理を露呈している部分が多い。映画製作者側はそれを巧みに誤魔化しているのですが、誤魔化し方がじつに巧妙で、感心してしまいました。

 最大の誤魔化しは、映画の中で南京に平和が戻らないことでしょう。南京での虐殺事件は昭和12年に起こっていますが、映画の中ではこれを日本軍の組織的な犯罪と解釈し、背後には松井司令官の「南京を殲滅すべし」という命令があったように描いています。日本軍は投降した中国兵をひとり残らず射殺し、市街に残った一般人も片っ端から殺しまくり、安全区に避難した難民を夜な夜な襲撃する……。もしこの映画に描かれていることが「事実」なら、南京は数ヶ月で人っ子ひとりいない廃虚と化したことでしょう。でも事実から言うと、南京は戦闘終了後急速に治安を取り戻し、避難していた人たちも戻ってきている。映画に描かれている内容からは、こうした歴史的事実を説明できないのです。

 この映画には、万人坑や百人斬り競争、日本軍内部の台湾兵士差別、松井司令官の中国通ぶり、最近日記の日本語訳が刊行された安全区のドイツ人ラーベなどが出てきます。これだけ細かい点まで調べた脚本家ですから、日本軍の南京入城時に市民たちが日章旗を振って出迎えたことも、治安が急速に回復して避難していた市民たちが戻ってきたことも知っていたはずです。でもそこを描かずに、物語を「子供たちの脱出」で終わらせてしまった。これは歴史的事実を誤魔化しているのですが、製作者たちなりの精一杯の「工夫」でもあります。

 映画のラストを観ると、南京ではその後も徹底的な蹂躪と破壊が行なわれて、市民全員が死に絶えたかのような印象を与えます。それが映画の狙いなんですけど……。

(原題:南京1937)



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