BE MY BOY

1998/03/13 東和映画試写室
ラブストーリーとしてより、ホームドラマとして一級品の映画。
歳のはなれたゲイカップルの恋の行方。by K. Hattori



 ゲイの青年サニーと、ゲイであることを周囲や家族に画し続けて生きてきた中年男ロー。香港のごく普通のゲイ・カップルの姿を描いた恋愛ドラマであり、ゲイであることを家族に打ち明けられない男を主人公にしたホームドラマでもある映画。シュウ・ケイ監督は、前作『喝采の扉』でも主人公の娘をゲイにしてましたが、今回の『BE MY BOY』ではさらに踏み込んで、主人公をゲイにしてしまいました。『ブエノスアイレス』で香港のゲイ映画に失望した僕ですが、今回の映画は面白かった。

 同性愛に対する考え方には、個人差があるし、世代間での差もある。若い世代は比較的同性愛に対して寛容で、年配の人は不寛容。でもこれは、単純に等式で結べるようなものではなく、若い人でもゲイを毛嫌いする人はいるし、年配の人でもゲイに理解を示す人はいる。この映画の中には、そうしたいろんなタイプのゲイ理解が登場している。そこに僕は、この題材に対する監督の理解の深さを感じるのです。ストーリー作家としては、物事をもっと単純化してしまいたくなる衝動にもかられると思うのですが、そこを我慢して、別の部分で物語をふくらませている。これは大したもんですね。

 同性愛に対する世代間ギャップは、同性愛者自身の中にもある。この映画の主人公ローは、自分がゲイであるということに対し、後ろめたい気持ちを少なからず持っている。それは「同性愛は病気」という古い考え方が幅を利かせていた環境で育たざるを得なかった、中年ゲイ世代の持つ宿命的な問題なのです。同性愛者を毛嫌いするオジサン連中に不快感を持ちながら、自分の中にもそれと同じ根を飼っているのがローという男です。友人がエイズで亡くなったとき、その親戚から「彼が同性愛者であること伏せたいので、恋人が葬儀に来ないように言い聞かせてほしい」と請われたとき、曖昧に笑うことしか出来ないロー。幼なじみの女性から結婚を迫られても、それに上手く返答できないロー。家族や親戚に対し、自分が同性愛者であることを告白できないロー。そんなローの姿に、僕は好感を持ちました。

 『欲望の街・古惑仔』シリーズの陳小春(チャン・シウチョン)が、ローの恋人サニーを好演しています。この人はこの顔で、香港映画界のスターなんだからすごいよね。富田靖子と共演した『kitchen/キッチン』でも、やや屈折した役を演じていたけれど、この映画の中では感情のひだの中まできちんと演じきるような芝居を見せていて、役者として一段と大きく成長した感じです。(フィルモグラフィーを観ると『kitchen/キッチン』の方が、この映画より後なんだけどね……。)字幕ではサニーの台詞が「オカマ言葉」になってましたが、広東語ではどうなってるんでしょうね。僕は特に彼がオカマっぽいという印象を受けなかったので、普通の言葉で字幕を付けてもよかったような気がしますが……。このあたりに引っかかって、かえってサニーの魅力が伝わりにくくなっているような気さえしました。

(原題:基●40 A QUEER STORY)●=人偏に尭



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