アルレット

1998/03/11 東和映画試写室
クリストファー・ランバートが45歳のウェイトレスをナンパ。
主演女優に馴染みがないのがネックだ。by K. Hattori



 ギャンブルでこさえた借金に首の回らなくなった青年が、返済金代わりにギャングから強制された「お仕事」。それは、大富豪の落しだねである45歳のオバサンを誘惑し、結婚することだった。相続人の名はアルレット。アメリカのカジノ王が、フランス駐留時代に現地の女性との間に作った子供だが、父親は母娘を残してアメリカに帰国。それから45年。娘に「父親は死んだ」と言い聞かせていた母親も既に亡く、アルレット本人は天涯孤独の身の上と信じている。しかしアメリカで大成功を収め、今まさに死の床に身を横たえているアルレットの父親は、フランスに残してきた娘に、膨大な額の遺産を相続させようとしているのだった。その遺産を狙うギャングたちが考え出したのが、ジゴロタイプの青年を使ったナンパ大作戦というわけ。

 ギャングに命を狙われ、嫌々ながらアルレットを誘惑する役回りに追いやられる青年役はクリストファー・ランバート。(フランス映画に出演するときは、クリストフ・ランベールだった気もしますが……。ま、いいか。)彼はもともとパリ育ちですから、フランス語も英語もペラペラ。この映画には、まさにうってつけの配役です。というより、彼に合せてこの役が書かれているような気もしますが……。アルレットを演ずるジョジアーヌ・バラスコは、映画であまり見かけない顔なので日本人には馴染みがありませんが、フランスでは人気のある女優さんのようです。この映画は彼女が主役で、ランバートは狂言回し。「バラスコは大スターである!」という前提なしには、こんな映画の存在など信じられない。

 場末のドライブインでウェイトレスをしていたアルレットが、年下の恋人の出現で、内面からきらきらと光り輝くように美しくなる(といっても限度はあります)という話の流れになっている。アルレット役のバラスコは、おそらく物語の後半に登場するような姿が普段のキャラクターなんでしょう。前半は大スターが「身をやつして」「演技している」わけです。彼女をもともと知っている人は、その芝居を「お芝居」として楽しめるんでしょうが、彼女に馴染みのない僕から見ると、彼女は単なる太ったウェイトレスでしかない。はっきり言って、前半の彼女に、僕は何の魅力も感じなかった。

 バラスコという女優に馴染みのない人にこの物語を楽しんでもらうには、映画の作りにもう一工夫必要だと思う。例えば、カジノ王がフランスに母娘を置き去りにする場面を回想シーンとして挿入し、そこに母親役でバラスコを出演させるなどです。この母親を美しい女性にしておけば、ウェイトレス姿のアルレットとの落差が生じるし、最後に父娘が再会するシーンに至るウリにもなる。もっともこの映画に「日本人観客を想定せよ」と要求してもしょうがない。フランス人が観る分にはこれでも十分にわかるし、面白いのかもしれません。ところどころ面白いシーンはありますが、特別大笑いできるわけでも感動できるわけでもない映画でした。

(原題:Arlette)



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