ザ・ウィナー

1998/03/05 GAGA試写室
カジノで勝ち続ける男に群がる欲に目がくらんだ人間たち。
脇が面白すぎて主役の影が薄い。by K. Hattori



 ある日、ラスヴェガスのカジノにふらりとやって来て、それから切れ目無しに勝ち続けている男がいる。男の運にあやかろうと、彼に群がる人々。この映画は、そんな「金に目のくらんだ人間」を描いている。ウェンディー・リズの戯曲『A Darker Purpose』を、彼女自身がが映画用に脚色。監督はアレック・コックス。負け知らずの男フィリップを演じるのは、『MIB』『草の上の月』のヴィンセント・ドノフリオ。その恋人ルイーズには『ゆりかごを揺らす手』のレベッカ・デモーネイ。フィリップの兄ウルフ役はマイケル・マドセン。フィリップが通うカジノのオーナー、キングマンを演じるのは『クロッカーズ』『身代金』のデルロイ・リンド。その部下ジャックに『スリング・ブレイド』で監督・脚本・主演を果したビリー・ボブ・ソーントン。フィリップの金を狙う癇癪持ちの泥棒には、『ザ・プロデューサー』でケヴィン・スペイシーを散々いじめまくったフランク・ホェーリーが扮している。要するに、ちょっと目端の利く映画ファンなら、十分気になる配役です。

 正直言って、僕はあまりこの映画に乗れなかった。勝ち続けるフィリップに群がる男女を描いた映画なら、中心になるフィリップはもっと大きな存在として描いた方がいいような気がします。彼を中心に物語の心棒を一本貫いて、その回りに周辺人物やエピソードを肉付けして行くスタイルに徹しないと、タイトルの『THE WINNER』も生きてこない。完成した映画を観る限り、フィリップの物語は他の人物のエピソードと等価のものになってしまい、映画の中心にどっかりと腰をすえているようには思えないのです。これは物語の構成として疑問がある。

 フィリップは本来、アリの群がった角砂糖のようなものではないのか。そしてフィリップ自身には、自分がアリにたかられているという自覚がまったくない。角砂糖はアリにかじられてどんどん小さくなっていく。食いつくされていい加減小さくなった頃に、クライマックスの大事件が起きて、角砂糖はまた自分の存在をアピールする。僕がこの映画の監督だったら、そんな構成にする。

 この映画の中のフィリップは、自分では何もしない男です。それに引き換え、彼の持つ運や金を目当てに、欲望に目をギラギラ光らせている者どもの、何と生き生きしていることか。こうした「生きた人間」と横1列に並べてしまうと、フィリップは精彩のない人間です。でも映画はそれを並べてしまったため、すべての人物を引き付けていたはずのフィリップ像は解体し、物語全体のタガが緩んでしまったのではないでしょうか。

 ものすごく単純な話のはずなのに、時々筋が追えなくなってしまうのは、脚本がヘタクソなのか、映画の語りがいい加減なのか、字幕がデタラメなのか、原因は不明。どっちにしろ、状況を「言葉」で説明することの多い映画です。もっと人物の「動き(アクション)」で物語を語ってほしかった。舞台劇を映画用に脚色する作業は、映画になれた脚本家に依頼した方がよかったかも。

(原題:THE WINNER)



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