アンナ

1998/03/05 シネカノン試写室
前回の試写で寝てしまったので再び試写室へ……。
そこでまた寝たとは話にならん。by K. Hattori



 前回、完成披露試写で寝てしまい、意を決して2度目の試写に出かけたのに、またしても寝てしまった僕は大馬鹿野郎です。疲労がたまった週末近くの、しかも食事の直後ってのは危険だな。今回は試写室に向かう道々で、既にあくびをかみ殺してましたから、危ないとは思ってたんだよね……。もっとも、寝ている範囲と寝ている場所が違ったので、今回と前回を合せれば、ある程度は映画の全体像について語ることが許されると思う。物語については前回大雑把に書いたので、今回は割愛します。

 前回、この映画がアステア&ヘプバーンの『パリの恋人』に影響を受けているのでは、という話を書きました。でもこの映画が、それ以上に影響を受けているのは、ジーン・ケリーの『巴里のアメリカ人』ではないでしょうか。映画の終盤、ジャン=クロード・ブリアリ扮するセルジュが見る幻想の中で、アンナ・カリーナが様々な扮装をして歌ったり踊ったりする場面を観ていて、僕は最初「この手の幻想シーンって、アメリカのミュージカル映画でもよくあるパターンだよな」と思ったのです。中でも有名な『巴里のアメリカ人』のラストは、ジーン・ケリーがガーシュインの名曲「パリのアメリカ人」に合せて、ロートレックの絵の中でモダンバレーを踊るというものでした。対する『アンナ』では、アンナ・カリーナがアメリカ国旗を背に、「ピストル・ジョー」と「G.I.ジョー」を歌い踊っている。たぶんこの場面は、『巴里のアメリカ人』に対するフランス人からのアンサーソングだと思うのです。

 こうしてMGM系映画からの関連項目を抜き出して行くと、オープニングの駅の場面は、アステアの『バンドワゴン』に似ているかもしれない。駅を降りたら広告の撮影中でホームが大騒ぎになっている『アンナ』と、駅を降りるとエヴァ・ガードナーが記者たちに取り囲まれている『バンドワゴン』は似てますよ。もっとも、ここまで言うのは、単なる表面上の相似を照らし合わせているだけかもしれません。でも『巴里のアメリカ人』からの影響に関しては、僕は絶対の自信があるぞ。

 主人公アンナを演じた、アンナ・カリーナの表情がじつに素晴らしい。物語らしい物語がないなかで、観客を画面に引き付けているのは、ひとえに彼女の溌剌とした表情なのです。ラストシーンのしみじみとした味わいなんて、彼女の涙に濡れた顔なしには考えられません。この映画では、彼女が幻想シーンでいろいろなコスチュームで登場するくだりがありますが(これもMGM映画の十八番ですね。『巴里のアメリカ人』のレスリー・キャロンしかり、『踊る大紐育』のヴェラ・エレンしかり)、そこで見せる豊かな表情の変化は印象に残ります。

 もとがテレビ番組ということで、『アンナ』の後に続く同系統の映画というのはあまりないようですが、少なくともこの映画が、それまでのミュージカル映画の流れを引き継いだものであることは確かです。今となっては、カラースタンダードという画面比も古風でいいですね。

(原題:ANNA)



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