ツイン・タウン

1998/02/23 シネマライズ渋谷
(完成披露試写会)
『トレインスポッティング』みたいな映画を期待してはいけない。
中盤までの感覚に独自の新しさを感じる。by K. Hattori



 『トレインスポッティング』の監督ダニー・ボイルと製作者アンドリュー・マクドナルドが製作総指揮した注目作。ダニー・ボイルはスコットランドを舞台に過去2作を作ってますが、本作で監督デビューしたケヴィン・アレンは、自分のホームタウンであるウェールズを舞台に映画を作っている。こうした地域密着型の映画製作が、映画に生のリアリズムを生むのでしょう。そう言えば、ゲイリー・オールドマンも、『ニル・バイ・マウス』を生まれ故郷のサウスロンドンで撮ってるし……。やっぱり「自分自身が一番よく知っていることを描く」というのが、映画の基本なのかもしれない。もっともこれは、映画に限らない話かもしれませんが。

 実際は双子じゃないのに、いつも一緒に行動していることから、町の人たちに「双子」と呼ばれているルイス家の悪たれ兄弟。札付きの悪ガキなのに、行動には抜け目がなくて、なかなか憎めない連中です。ある時、町の有力者ブリンが経営するラグビークラブの屋根を修理していて、兄弟の父親が怪我をした。兄弟はブリンの家に見舞金をせしめに行くが、ブリンは兄弟と父親を侮辱して追い返す。腹を立てた兄弟は、カラオケ大会に出場したブリンの娘に、小便をひっかけて復讐。それに激怒したブリンが兄弟を袋叩きにすると、兄弟はブリンの犬に悪戯し、復讐合戦はエスカレートして行く。

 ケンカは片方にしか非がなければ、長くは続かないものです。ルイス家の兄弟の悪さにムキになるブリンたちは、社会的立場はともかくとして、頭の中身は兄弟と同じで「子供」なのです。それがわかっているから、「やられたら2倍にしてやり返せ!」という、子供のケンカ並みの復讐合戦はそれなりにユーモアもあるし、笑って観ていられる。でも暴力がエスカレートし、一切がとり返しのつかない一線を超えてしまったあたりで、映画はコメディ色を無くしてしまう。映画は急にシリアスになって、全体に余裕がなくなるのです。こうなると何をやっても「洒落にならん」ということになる。

 「人殺しはいけない」などというモラルを持ち出すつもりはない。映画の中では人殺しも結構。大いにやればいい。ただし、それで観客を楽しませてくれなくちゃ困る。この映画が中盤で失速するのは、人が死んだとたんに復讐合戦がピタリと止まって、登場人物たちが急に大人しくなってしまうからです。荒唐無稽でファンタジックな感じさえした兄弟の活躍は、昔ながらの窮屈な復讐劇や人情劇の枠の中に押し込められ、ブリンたちの行動は、手垢のついた犯罪ドラマと化して行く。縦横無尽に飛び跳ねていた物語が、突然モラリスティックなレールの上を走り始める違和感を感じます。そこが少し残念。

 前半から中盤にかけてのテンポやタッチには、この作品独自の感性にあふれていて、観ていてドキドキします。これは監督の才能でしょう。ダニー・ボイルは2作目で化けましたが、アレン監督も次回作で大きく成長するでしょう。その可能性を十分に感じさせる作品です。

(原題:TWIN TOWN)



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