袋小路

1998/02/23 東和映画試写室
ロマン・ポランスキー監督が1966年に撮った心理劇。
主演はフランソワーズ・ドルレアック。by K. Hattori



 5月下旬から、渋谷のユーロスペースでロマン・ポランスキー監督の初期3作品が連続上映されます。今回の特集では、ポーランドで撮った彼の長編デビュー作『水の中のナイフ』と、イギリスで撮った2本、カトリーヌ・ドヌーブ主演の『REPULSION 反撥』と、フランソワーズ・ドルレアック主演の『袋小路』が選ばれている。こうした映画の選択には、配給側のセンスを感じさせます。ポランスキーとは関係ないけど、これの特集と同じタイミングで、ドヌーブとドルレアックの姉妹が共演したミュージカル『ロシュフォールの恋人たち』や、ドヌーブ主演の『シェルブールの雨傘』を再映してくれないだろうか。そうすると、雑誌などでも小さなコラムや特集が作りやすいと思うんだけど……。もっともこれは、僕が映画館で『ロシュフォール』をもう一度観たいという下心もありますけどね。

 この『袋小路』は、小人数の密室ドラマという雰囲気の作品です。実際にはそれなりに大勢の数の人間が登場しますが、中心になるのは3人。仕事に失敗して手負いとなった中年ギャングと、古城に住む初老の男、その若い妻。車で逃走中のギャングは途中で立ち往生し、仲間の助けを呼ぶために古城を訪れるが、そこで暮らしているのが夫婦ふたりだけだと知ると、夫婦を脅してそこに居着いてしまう。この滑り出しは脱獄囚が平和な家庭に押し入る『必死の逃亡者』を連想させますが、『袋小路』のユニークさは、押し入られた家庭が必ずしも平和で円満なものではないという点にある。女房が若い男と浮気していることが最初に明らかにされていますし、亭主の方はずいぶん無理をして妻との生活を守ろうとしているらしい。夫婦関係は「冷え切っている」とまでは言えないけれど、ぎくしゃくし、すきま風が吹き抜けるようなオンボロ状態に近づいていることが一目瞭然。

 そんな夫婦のもとに、手負いのギャングが飛び込んでくるのです。アメリカ映画なら、この危機を乗り越えることで、夫婦関係の危機も乗り越えるという話にするのでしょうが、この映画はそうはならない。時ならぬ乱入者の登場で、夫婦間に芽生えていた亀裂は決定的なものとなり、最後はすべてが瓦解してしまう。

 物語が逃亡ギャングの視点から始まり、やがて古城の主の視点になり、最後は妻の視点へと移動して行く構成になっている。要するに、物語の牽引役である主人公が、次々と交代するわけです。この主役交代はじつになめらかで、観ていてもほとんど違和感を感じさせなかった。全編観終わると、最後の主人公であるフランソワーズ・ドルレアックが、映画全体を支配していることに気付かされるのですが……。城主の最後の台詞が、人間の業の深さを感じさせます。すごくショックでした。

 最近の映画では、ゲイリー・オールドマンの『ニル・バイ・マウス』が同じように登場人物間で視点移動を行なっていました。映画としては特別ユニークなものではないと思いますが、技術的には難しいものでしょう。

(原題:CUL-DE-SAC)



ホームページ
ホームページへ