ボンベイ

1998/02/04 シネセゾン試写室
1992年に起きた宗教紛争を描くインド製の社会派ミュージカル。
2時間21分があっという間にすぎる大傑作! by K. Hattori



 後半では涙ボロボロ。これは傑作です。インドのミュージカル映画ですが、先日観た『ムトゥ 踊るマハラジャ』はミュージカル・コメディで、こちらはミュージカル・ドラマ。ヒンドゥー教の青年セーカルとムスリムの少女バーヌが愛し合い、両家の反対を押しきって駆け落ち結婚。ボンベイで新生活を始める。子供も生まれ、幸せなふたり。孫ができたことで、憎み合っていた二人の親たちも和解する。しかしその時、ボンベイはヒンドゥー教徒とムスリムの対立で、血生臭い暴動が起きようとしていた……。平和な農村風景から物語が始まり、群集が手に手に凶器を持って殺し合う凄惨な暴動をクライマックスにするドラマ作り。宗教的な対立や差別意識から憎み合っていた両家が、苦労しながら和解したと同時に、町の中では同じ宗教対立から殺し合いが行なわれているという、個人と社会の葛藤を描くダイナミズム。

 映画の前半は、主人公たちがどのように恋に落ち、周囲の反対を押しきって結婚したかが描かれます。見どころは、セーカルが村の結婚式でバーヌと再会したところから始まる、豪華絢爛なミュージカル場面。シネスコ画面いっぱいに繰り広げられる、極彩色の衣装を着けた女たちの群舞は壮観です。カット割りなどを見ると、これはハリウッド製のミュージカル映画というより、MTVに多くの影響を受けていることがわかります。歌は通しで流れてゆきますが、人物の立ち位置やカメラアングルが1カットごとに変化して行き、絵としてつながっていない。これは、その後のどんなミュージカル場面でも同じことが言えます。絵を見る限り、これはドラマの一部というより主人公たちの心象風景でしょう。しかし、歌はドラマの進行を助け、時に物語を引っ張って行く。ミュージカル場面に、二重の意味があるわけです。

 ミュージカル場面が多いのは、前半から中盤にかけて。ふたりが城塞跡でデートして愛を確かめ合うシーンのドラマチックなナンバーや、新婚の二人が初めて結ばれる前後のダンスシーンなどが印象に残ります。特に後者は、新婚のベッドを共にしようとするふたりの様子と、まったく別の場所で歌い踊るダンサーたちをカットバックさせるという、じつにユニークな構成になっています。ミュージカル映画でベッドシーンを描くのは難しく、『ウェスト・サイド物語』でも原作舞台にあったイメージシーンをカットしてしまったぐらいです。この映画では、「へ〜、こんな表現方法があったのか」とびっくり。

 映画の後半は、家庭内での両家の和解と、市街で起っている宗教対立(戦争と言ってもいい)を対比させる構成。ホームドラマ部分が、じつにユーモラスに描けているので、殺伐とした街の様子と好対照になる。多大な犠牲の上に、人々が武器を捨てて街に平和が訪れる場面では、「なぜ憎み合う。みな同じインド人じゃないか。さあ武器を捨てよう」という歌をバックに、強引に畳み掛けて行くような力強い演出。クサイんだけど感動してしまう。暴動が実際の事件だけに考えさせられます。

(英語題:BOMBAY)



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