ウィンター・ゲスト

1998/01/29 徳間ホール
俳優アラン・リックマンが舞台演出も担当した作品を映画化。
撮影監督の力量に感心させられた。by K. Hattori



 今年は有名俳優の映画監督デビュー作が相次いで公開されますが、この作品もその中のひとつです。監督は『ダイ・ハード』のテロリスト役や、『いつか晴れた日に』『マイケル・コリンズ』などに出演していたアラン・リックマン。この人はロイヤル・シェイクスピア・カンパニーにも参加していたことのある本格派の俳優ですが、最近は舞台演出にも手腕を発揮しているらしい。そんな彼の演出で、'95年に幕を開けた舞台劇を映画化したのが、この映画『ウィンター・ゲスト』。凍てついたスコットランドの海辺にある町を舞台に、ほんのりと温かい人と人との絆を描いた作品です。

 この映画の見どころとしては、まず第一に撮影の素晴らしさを挙げなければならないでしょう。一面の雪景色をモノトーンの映像で美しく仕上げ、雪や氷や岩の質感までしっかりと感じさせる映像。空気の冷たさ、凍った海の匂いなど、画面を満たす温度まで伝わってきそうな映像を作り出しているからこそ、そこにある人間の温かさが心地よい。撮影監督はスチル・カメラマン出身のシーマス・マクガーヴィー。まだ作品がほとんど日本に紹介されていない気鋭のカメラマンですが、マイケル・ウィンターボトム監督の『バタフライ・キス』も彼の作品だとか。こちらも今年公開される映画なので、マクガーヴィーというカメラマンの名前を覚えておいてもいいかもしれません。

 この『ウィンター・ゲスト』は、マクガーヴィーの撮影抜きには考えられない映画だと思う。びっくりするようなカメラワークはなく、対象をじっくりと正面から撮る正攻法のカメラですが、対象の内側まで入り込んで行くような厳しさを持ちあわせています。この映画の魅力の半分は撮影によるところが大きいと思うので、逆に舞台版がどんなものだったのか興味が出ます。

 舞台劇の映画化作品というと、狭苦しい室内劇や、場面を限定したものになることが多いものです。そこで舞台劇を映画にする際は、意識して「舞台では実現不可能な表現」を盛り込もうとする。例えば屋外での大ロケーションや空撮ショットなどです。でも、映画と舞台の違いは、じつはもっと些細なところにある。例えばクローズアップ、スローモーション、カットバックなどは、映画でしか表現できないものです。この映画は全編がカットバックの連続。それが上手いところもあるし、うっとうしいところもありますが、映画の序盤、フィリーダ・ローが家にある望遠鏡で、道を歩く人の姿をのぞく場面は、特に素晴らしい効果を生み出していました。

 フィリーダ・ローとエマ・トンプソンという実際の母娘女優が、映画の中でも母娘を演じています。僕はエマ・トンプソンがようやく年令相応の役を演じていることに感心しました。今回はハイティーンの息子を持つ母親役です。彼女はアラン・リックマンと共演した『いつか晴れた日に』で、娘役を演じてましたからね。ずうずうしいたらありゃしない。

(原題:The Winter Guest)



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