大安に仏滅!?

1998/01/28 東映第1試写室
『お日柄もよくご愁傷さま』の和泉聖治が撮った新作ホームドラマ。
欠陥住宅というテーマが腰砕けになった。by K. Hattori



 『お日柄もよくご愁傷さま』で、日本の典型的家族像を良質のホームドラマにまとめあげた和泉聖治監督が、『お日柄もよく〜』で組んだ橋爪功・吉行和子を再び主演に迎えて撮った新作ホームドラマ。といっても、別に前作の続編ではないので、これが初めての方もご安心を。今回は一念発起して家を購入したサラリーマンが、我が家が欠陥住宅だったことを知って右往左往する様子を、娘の結婚や、息子の独立などをからめながら描いてゆく。僕は『お日柄もよくご愁傷さま』が大好きなので、今回の映画にはずいぶんと期待したのだが、残念ながら内容は前作に遠く及ばなかった。もちろん、ドラマ作りの水準としては邦画の平均レベルを超えていると思うが、これならテレビドラマでも構わないと思わせてしまう程度のできだと思う。前作はテレビでお馴染みの顔をそろえていても、しっかり映画だったのにな……。

 今回何よりも疑問に思ったのは、本来メインのテーマであったはずの「欠陥住宅問題」が途中から忘れ去られ、娘の結婚や息子の独立問題にすりかわってしまうところだ。工務店の手抜き工事から家が傾きはじめ、床をゴルフボールが転げ回り、歪んだ戸の開け閉てに苦労し、天井からは雨漏りが起き、床下では柱の一部が抜けた家。工務店に掛け合ってもらちが明かず、「欠陥住宅に悩む人のための無料相談会」から紹介してもらった弁護士と工務店を訪ねれば、そこは夜逃げした後でもぬけのから。踏んだり蹴ったり。相談会で知合った同じ傷をもつ者同士で、肩をたたき合い「がんばりましょう」と言うばかり。万策つきて、主人公は男泣きに泣くしかない。でも観客が観たいのは、この後、家がどうなるかではないのだろうか? 肝心かなめの正念場になって、「がんばろう」で済ませてしまって構わないんでしょうかね?

 『お日柄もよくご愁傷さま』も内容盛り沢山の映画だったけど、この映画もそれに負けずに盛り沢山。でもそれが、物語の中でしっくりこなれていない。松村達雄扮するおじいさんのエピソードは余りにも中途半端だし、金子賢演ずる息子と年上女性の結婚話も宙に浮いている。松村達雄は『お日柄もよく〜』でも橋爪功の父親を演じていたが、核家族の中で父から子へ何かが継承されてゆくというテーマは、前作の方が鮮明だったと思う。この映画では、人を引き付ける東京という都市と地方の対比が描かれているが、それもまったく映画の中で活かされていない。青森出身の主人公が、母が死んでから田舎で一人暮らしをしている父を東京の家に引き取るが、父はそんな東京の暮らしに馴染めずに青森に帰って行く。それが映画にどんな意味を与えているというのだろうか?

 娘が老舗旅館の跡取り息子のもとに嫁ぎ、どことなく格式の違いや金銭感覚の相違を感じて、「サラリーマンに嫁いでくれたほうが楽だ」とつぶやく場面は面白かった。このあたりをもう少し掘り下げて行くと、欠陥住宅以外に、もうひとつ物語の柱ができたと思う。この映画の中には、面白くなる種がまだまだ眠っている。


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