だれも私を愛さない!

1998/01/23 TCC試写室
母と娘の難しい関係を描く、シリアスでコミカルなホームドラマ。
途中からずっと笑いっぱなしだった。by K. Hattori



 シャルロット・ゲンズブール、イヴァン・アタル主演の『ラブetc.』を撮ったマリオン・ヴェルヌー監督が、1993年に撮った劇場映画デビュー作。母と娘の確執と和解を軸に、姉妹の葛藤、旅先での浮気心、女同士の友情など、雑多なエピソードをぶちこんでゴトゴト煮込んだ鍋料理。物語がぶんぶん過去と現在を往復するので、筋を追いかけるのが結構たいへん。僕は映画を観終わってからプレスを見て、「へ〜、こんな話だったのか!」という部分がかなりありました。わかりにくいところはありますが、でもそれでこの映画の面白さが損なわれているかというと、じつはあんまりマイナスになっていないような気がします。

 この映画は、あまり人間同士の関係性にこだわっていない。もちろん中心にあるのは母親と娘の関係ですが、ふたりはもう何年も顔を合わしていない。母親は妹の亭主の浮気現場を押さえようと、妹とふたり、キャンピングカーで旅に出る。旅先のホテルで出会った女主人、メイド、女主人に恋する中年男。いろいろな人を巻き込みながら、旅は続くよどこまでも……。その合間に挿入されるのは、母親と娘の過去のエピソード。現在と過去で、特に画調を変えたりしていないため、どのエピソードがどう次のエピソードにつながって行くのか、すごくわかりずらい。でもこれは、話の順序や筋道を追うためというより、キャラクターの肉付けのために挿入されているものだと割り切ってしまえば、それなりに楽しめます。

 映画の序盤は、観ているのが結構つらい、退屈な映画だと思っていた。登場するのは顔に青あざを作ったおばさん、けばけばしい化粧をしたその妹、憂鬱な顔をした若い女、うんざりした顔で父親の結婚式に出ようとする少女などですからね。ところが主人公たちがホテルに着いて、ミシェル・ラロク演ずるホテルの女主人が登場したあたりから、映画は俄然スピードがついて面白くなってくる。随所にちりばめられたギャグやユーモアに、思いがけずクスクス笑いが絶えない展開。こうなるともう、最後まで楽しくて楽しくて……。

 ミシェル・ラロクは『ペダル・ドゥース』にも出ていた女優さんですよね。僕はこの映画で知っている俳優って、彼女ぐらいでした。フランス映画を古くから観ている人たちなら、主人公アニーを演じたベルナデット・ラフォンや、妹を演じたビュル・オジェ、アニーの別れた夫を演じているジャン・ピエール・レオーに親しみを感じるのかもしれません。でも僕は、そうした素地がないので全員知らない人たちばかりだった。やはり映画は、ある程度観続けていないと駄目ですね。

 監督のマリオン・ヴェルヌーという人は、1967年生まれだから僕より年下ではないか! この映画は彼女が26歳の時の作品です。この作品は彼女の自伝的要素が含まれているといいます。2作目の『ラブetc.』もまだ少し乱暴なところがあると思いましたが、そうか……、まだまだ若い監督なんですね。今後にも期待できそう。

(原題:PERSONNE NE M'AIME)



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