長靴をはいた猫

1998/01/23 東映第1試写室
シャルル・ペローの童話を原作とした長編アニメーション映画。
昭和44年に製作された古典です。by K. Hattori



 この3月に『銀河鉄道999/エターナル・ファンタジー』(新作です)と同時公開される、昭和44年製作の東映アニメの古典。この映画はテレビで何度も何度も繰り返し見ているので、今さら内容についてどうこう言う必要もまったく感じないし、新たな感動や感想も特にない。ニュープリントと言うだけあって画面がきれいなことと、シネスコサイズがトリミングなしで観られることが新しさかな。テレビだと画面サイズはシネスコの半分ですから、劇場で観るとものすごく情報量は多いはずです。もっとも、この映画はシネスコ用に画面をレイアウトしている場面があまりない。横長画面を十分に活用した画面構成になっていないから、トリミングしてもあまり印象は変わらないんじゃないでしょうか。

 今回観て面白かったのは、この映画の人物配置が『タイタニック』と同じだという点です。美しいお姫様と、貧しい少年のロマンス。お姫様の親は、財産のために娘を結婚させようとする。そこに現われたのは、世界で一番の金持ちの魔王ルシファ。お姫様は魔王との結婚を嫌って、貧しい少年と結ばれる……。この関係だけを見ると、じつは『タイタニック』より『長靴をはいた猫』の方がよくできてます。何より素晴らしいのは、魔王ルシファも、彼なりにローザ姫を愛していることがきちんと伝わってくるからです。婚礼の晩、数々のごちそうを自分の城に用意して姫の到着を待つ魔王の姿は、結構身につまされるものがありました。そこには恋に一途な男の姿がある。自分の愛を疑わない、恋する男の純情がある。

 魔王ルシファの一途さに比べると、貧しいピエールの気持ちは今ひとつ煮え切らない。彼はそもそも、ローザ姫のことが好きなのか? たまたま町に出て高札を読み、猫のペロが先回りして花婿候補に名乗りをあげただけではないのか? また、ローザ姫の気持ちもわかりにくい。彼女は魔王との結婚を避けるに、ピエールにすがるしかなかったのではないか? もちろん、終盤の魔王の城に入ってからのピエールの活躍はめざましいし、成長ぶりには目をみはる。彼は自信喪失した気弱な少年から、愛する女性を守るために戦う男へと成長して行く様子には説得力がある。でも、その前の状態が気になるんだよね。

 ピエールの兄、ダニエルとレーモンが、姫の花婿候補として町にやってくる場面があります。彼らは、姫のことを愛しているわけではない。彼らが欲しいのは、国中で一番美しいローザ姫を我がものにすることと、それによって手に入る名誉や地位です。こうしたものに、ピエールはほとんど興味がないのですが、ペロはそうした栄誉をピエールに与えたくて、さまざまな策謀を巡らしたのではあるまいか。どうもそのへんが気になります。

 この映画のこうした無邪気さが、この映画の古さになっています。もちろんこうした要素は、ペローの原作童話にもあるものですが、でも今作るなら、このあたりは何か別の説明をしたり動機付けをしたりするよね。ディズニーアニメなら、まず絶対にそうしてます。


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