一生、遊んで暮らしたい

1997/12/16 GAGA試写室
中場利一原作の『岸和田少年愚連隊』シリーズ第3弾と言ってもいい映画。
主演の猿岩石が力不足でつまらないが、脇役は面白い。by K. Hattori



 ユーラシア大陸横断ヒッチハイクで一躍お茶の間の人気者(死語)になった猿岩石の、映画主演デビュー作。中場利一のエッセイ集「一生、遊んで暮らしたい」を原作に、リイチと小鉄の悪たれコンビが織り成す、型破りな青春を描いて行く。このキャラクターは同じ原作者による2本の映画化作品『岸和田少年愚連隊』『岸和田少年愚連隊・血煙り純情篇』を継承するものだ。リイチと小鉄、ガイラ、怪人カオルちゃんなど、お馴染みのキャラクターが次々と登場するのは嬉しい。

 配給会社としては前2作とは別系統の作品として売り出したいのだろうが、こっちは前2作を観ているので、やはり「シリーズ作品」という目で見てしまう。1作目は吉本興業と松竹の提携作品で主演はナインティナイン、2作目は製作・配給までが吉本興業で主演が千原兄弟、今回はGAGA PRODUCTIONS製作で制作協力に太田プロダクション。そして主演が猿岩石になりました。吉本が抜けたせいかどうかは知らないが、シリーズ作品としては大きくパワーダウンしている。1作目のような破天荒なパワーが感じられないし、2作目のような構成・作劇上の工夫もない。脚本は『岸和田少年愚連隊』にも関わっていた我妻正義、監督は『リストラ大紋』の金澤克次。この映画の何が悪いって、一番悪いのはやはり主演ふたりの力不足で、次が監督の演出でしょう。

 猿岩石のふたりは、リイチと小鉄という役柄から明らかに浮き上がっている。そもそも、言葉づかいからして嘘っぽい。吉本製作の『岸和田少年愚連隊』シリーズがなぜあれほど迫力を持っていたかといえば、それはホンマモンの岸和田弁の迫力を、映画を観る者に感じさせたという点が大きかった。この場合、言葉がホンマモンそのままである必要は必ずしもない。ホンマモンの匂いが感じられればそれでいいのだ。例えば1作目に出演していた秋野暢子や小林稔侍の言葉は、ホンマモンの関西弁ではあり得ない。しかし、それを映画の中でホンマモンに見せる工夫をしていたから、観客は映画の中の約束事として笑って見過ごすことができるのだ。

 しかし、今回の猿岩石は駄目だね。役柄を無理に作って変にすごんで喋るから、台詞がこわばってしまう。柔らかさのない喋りは、登場人物の中から発せられた言葉であることをやめ、単なる台本の棒読みになってしまうのです。この映画の中のリイチと小鉄は、無理矢理イキがっているハンパな兄ちゃんたちに過ぎない。身体をふんぞり返らせて、肩で風切るようにのそのそ歩く姿は無様だし、ぜんぜん似合ってもいない。『岸和田少年愚連隊』シリーズが面白かったのは、彼らがバカなことをやりながらも一所懸命に生きている姿が見えたからだ。でもこの映画にはそれがない。冒頭の喧嘩のシーンで、この映画がぜんぜん駄目だということが見えてしまった。

 脇役たちには観るべきものがある。みどり役の八木小織が意外によかった。イサミちゃん役の渡嘉敷勝男、清次役の木下ほうかなども、最高に笑かしてくれます。


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