スタントウーマン
夢の破片(かけら)

1997/12/09 TCC試写室
このプロットでこの出演者。脚本がもっとマシなら20倍は面白くなるよ。
序盤の撮影所裏話みたいなエピソードは面白い。by K. Hattori



 シネマ・カリテで1月から始まる「香港電影不夜街/アジアン・ハーツ・コレクション」の最後の作品ですが、3月14日公開の映画の試写を今から回しているんだから気が早いような気もしました。この特集は3本の内2本までが『欲望の街・古惑仔』シリーズの番外編で、今回観たこの映画だけがそれとは別系統の作品。香港の映画界でスタントの仕事をしている女性を主人公に、友情あり、恋あり、映画撮影の裏話あり、黒社会との対立あり、当然アクションありと、盛りだくさんの内容です。これだけアイデアを盛り込めればすごく面白い映画が出来上がりそうなものですが、なぜかあまり面白くないのはどうしてでしょう。脚本が悪いのかなぁ。

 スタントに人生を賭ける主人公カンを演じているのは、007シリーズ最新作『トゥモロー・ネヴァー・ダイ』にも出演している、香港随一のアクション女優ミシェール・キング。そのボスであるアクション監督タン役に、実際に多くの映画でアクション監督を務めて数々の名作を作り上げ、俳優としても常にトップスター(?)の座を守り続けているサモ・ハン・キンポー。サモ・ハンはこの映画では出演のみで、アクション監督は『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』や『ドラゴン・イン』のチン・シュウトンが担当している。

 主人公が撮影所に現われて、タンの前で自己紹介がてら体を動かしてみせる場面があります。「何ができる?」「カンフーを少々」「やってみろ」「はい!」。この映画の最初の失敗は、この場面でミシェール・キング本人のカンフーを見せず、いきなりスタントを使ってしまったこと。僕はこの時点で、スーッと白けてしまった。スタントを使うのは構わないけど、もっとうまい使い方だってあるはずです。アクションの途中でカットを割って、ミシェールの顔のアップを要所に挿入して行けばそれなりに見えるし、せめて最後の決めポーズのところだけでも本人の顔が見えるアングルで撮影すべきです。

 物語も単純にひとりのスタントウーマンの成長を追いかけて、スポーツ映画風に作った方が面白かったのではないだろうか。定型のフォーマットに押し込んでしまったほうが、同じストーリーを語るにしても、もっとスッキリまとめられたと思う。主人公が映画界から一時引退するくだりは、ミシェール・キング本人のプライベートなエピソードに重なってくる面白さがあるのかもしれないけど、ここで物語が決定的にもたつくのは事実。恋人の登場する場面をずっと前に持ってきて、引退前後で話を少し盛り上げておけば、恋愛関係の破綻から復帰までの筋運びもスムーズになったように思う。

 全体の構成に工夫がなくて、ただアタマの方から順番に、主人公を追い掛け回しているだけなのは物足りない。脇にいる人物を効果的に動かして行けば、映画にもっとふくらみが出てきたはず。主人公の仕事仲間や、ルームメイトの存在など、面白くなりそうな要素はたくさんあるのにもったいない。すごく残念な映画です。


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