侠女(上)

1997/12/04 ユニジャパン試写室
血沸き肉踊る武侠映画の傑作。女剣士がかっこいいぞ!
胡金銓(キン・フー)監督代表作の上巻。by K. Hattori



 1975年のカンヌ映画祭で、高等技術委員会グランプリを獲得した、胡金銓(キン・フー)監督の代表作。台湾での公開は70年で、翌年に下巻が公開。香港では上下通しで71年に公開されている。僕の持っている「ぴあシネマガイド」の95年版には、『侠女』は71年の中国映画としてクレジットされており、しかもコメントの中には「香港映画」という言葉もあるなど、混乱してます。胡金銓監督は香港でも何本かの映画を作っており、そこからこうした誤解が生れるのかもしれません。『侠女』は上下巻3時間を超える大作。その上巻を観ただけなので、映画全体としての評価は控えますが、チャンバラ映画としてはなかなか見応えがありました。

 殺陣には日本のチャンバラ映画の影響が多分に見られるのですが、日本は歌舞伎ベースの殺陣、武侠映画は京劇がベースの殺陣になっているせいか、立ち回りの構成にずいぶんと違いが見えます。一番の違いは、殺陣がすごく立体的なことと、からみの動作が循環型になっていることでしょう。ワイヤーやトランポリンを使って、高さのある殺陣を組み立てているのは、日本映画ではなかなか観られないものだと思います。忍者映画などにジャンプや飛び降りなどがないわけではありませんが、『侠女』で観られるような一種の空中戦は、武侠映画ならではの表現ではないでしょうか。

 日本の時代劇だと、剣豪同士が互いに刀を構えてジリジリと間合いを計り合い、動いた瞬間に一撃必殺の刃が閃光もろともズバリと決まっておしまい、というパターンがひとつの定石になってます。ところが武侠映画では、常に動き回る。動いて動いて、その動きの中に駆け引きや攻防を盛り込んで行く。必然的に動きのバリエーションを付けるために、アクロバティックな空中戦が多く描かれる。その際、京劇のアクロバティックな動作が、殺陣の中に多く盛りこまれているようです。日本の舞台は奥行きが狭くて左右の袖が広いので、歌舞伎の影響を受けた映画の中の殺陣も、左右への直線的な動きがメインになる。京劇は舞台の奥行きを使った動きが普通なので、映画の中の殺陣も前後の動きが多くなるのかな。

 『侠女』の上巻では、ラストの竹林の中での斬り合いが大きな見せ場になっています。ここでも画面の奥行きをたっぷり使いながら、竹林の深さや地面の起伏をうまく生かしたダイナミックな殺陣の構成になっている。最後はジャンプして竹の上の方に一度捉まってから、飛び降りて敵を斬り倒すという、ほとんどプロレスでいうコーナーポストからのジャンプさながらの空中殺法。

 物語がこれからいよいよ山場だというところで上巻が終わるのは、二部構成映画の常套手段。昔は日本にも、同じような構成の映画がたくさんありました。こういうのって、後半が始まると案外あっさりと決着がついてしまうのが常なんですが、それでも観客をワクワクドキドキさせます。物語のバックボーンを最後になって明らかにするのも、そうした効果を狙ったためです。


ホームページ
ホームページへ