マッド・ドッグス

1997/11/17 TCC試写室
豪華キャストで作られた、古き良き時代の香りがするギャング映画。
シナトラ映画で育った世代の悪ノリりぶりが楽しい。by K. Hattori



 『バウンド』『妻の恋人、夫の愛人』『ブレード/刀』など、個性的な作品を配給しているK2エンタテインメントが、来年1月に公開するギャング映画。出演者がとにかく豪華で、ざっと列記すると……、リチャード・ドレイファス、ジェフ・ゴールドブラム、ガブリエル・バーン、エレン・バーキン、ダイアン・レイン、カイル・マクラクラン、グレゴリー・ハインズ、バート・レイノルズ、ラリー・ビショップ、クリストファー・ジョーンズ、ビリー・アイドル、アンジー・エヴァハート、ポール・アンカ、ヘンリー・シルヴァ、マイケル・J・ポラード、ジョーイ・ビショップ、リチャード・プライヤーなど。最近の映画だとウディ・アレンの『世界中がアイ・ラヴ・ユー』も出演者が豪華だったけど、この映画もそれに負けてないぞ。

 オープニングでフランク・シナトラの歌う「I've Got The World on a String」が朗々と響き渡る。映画の性格を、これほど明確に現わしているものはない。この映画って結局は、「シナトラの出ないシナトラ映画」なんだよね。映画の中では他にも、ディーン・マーティンやサミー・デイヴィスJr.など、「シナトラ一家」の曲が効果的に使われているし、ポール・アンカとガブリエル・バーンがシナトラのテーマ曲「マイ・ウェイ」をデュエットするという場面も用意されている。(ご存知の通り「マイ・ウェイ」の作者はポール・アンカです。)映画の内容を考えると、オープニングの曲はシナトラの歌う「マック・ザ・ナイフ」の方がよかったような気もするけど、それじゃ映画のネタバレになっちゃうのかな。

 マッド・ドッグと恐れられるギャングのボス、ヴィックが療養中の精神病院を退院するところから映画がはじまります。このボスがすごく凶悪な人物という話なのですが、演じているのがリチャード・ドレイファスだから、すっかり脂が抜けちゃって迫力がない。さんざん「恐いぞ、恐いぞ」と言っていて、いざ登場すると拍子抜けという部分が「マック・ザ・ナイフ」(というよりブレヒトとワイルの『三文オペラ』)なのです。

 今回凄腕の殺し屋という役どころで出演もしている、監督・脚本・製作のラリー・ビショップは、彼の父のジョーイ・ビショップがシナトラと親しかった関係で、幼い頃からシナトラ一家とは親交があったようです。彼は自作について「この映画は“ラット・パック(シナトラ一家)”が上にいて、下のゴドーを待っている感じだ。意味、解るかい? 俺にも解らないんだよ」と語っています。わからなくても結構。楽しければいいのです。

 この映画は、登場する男たちが全員ギャング、登場する女たちが全員ギャングの情婦という物語。最近はリアリズム指向で、ギャングといえばマフィアの構成員のことになっていますが、この映画に登場するギャング、はそうした現実から離れたところにいる連中です。映画という虚構の世界にだけ生きている存在。ピカピカの新作映画でありながら、懐かしさを感じさせる映画なのです。


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