ミミック

1997/11/10 松竹第1試写室
鳥肌も立ちます、吐き気もします。これは恐怖ではなく、生理的嫌悪感。
ゴキブリが嫌いな人は絶対に観てはいけません。by K. Hattori



 遺伝子操作によって生れた突然変異種の昆虫が、ニューヨークの地下鉄に巣食って人間を襲うバイオホラー。物語の発端は、ゴキブリを媒介にして人間に感染する疫病だった。子供ばかりに感染し、高い死亡率を伴った現代のペストを根絶するために、ウィルスの宿主であるゴキブリの駆除が行なわれる。そこで登場したのが、遺伝子操作で人工的に作り出されたゴキブリの天敵〈ユダ〉。ゴキブリの生命力、カマキリの捕食性、アリの社会性を身につけたこの新生物は、体内からの分泌物でニューヨーク中のゴキブリを絶滅させる。生殖能力のないユダは1代限りの生命体として、ひっそりと歴史の裏側に消えて行くと思われた。3年後に事件が起るまでは……。

 〈ユダ〉の生みの親である、生物学者スーザン・タイラーを演じているのは、『誘惑のアフロディーテ』でアカデミー賞を取ったミラ・ソルヴィーノ。その恩師ゲイツ博士を演じているのが、『アマデウス』のアカデミー俳優、F・マーレー・エイブラハム。この映画には、アカデミー賞俳優がふたりも出演しているのです。この映画のどんな描写より、その事実の方がなんだか恐い。

 映画の中身ははっきり行ってB級もいいところ。遺伝子操作だの昆虫の擬態だの、目新しいキーワードが登場するからSFかと思うとさにあらずで、これらは単に物語のための方便にすぎない。これがSFなら物語の序盤で、昆虫を媒介にしたウィルスの特性、ゴキブリの駆除法、遺伝子操作の実態、突然変異種が生き延びた理由、昆虫の変態や擬態などについて、もっと詳しく説明して行かなければならない。でも、この映画ではこうした個々の事象は物語の素材でしかない。もっと言えば、こうした難しそうなキーワードをちりばめることで、観客を煙に巻こうという一種の煙幕攻勢。これにごまかされてしまうと、物語のデタラメさやいい加減さが目に入らなくなってしまうのでしょう。

 映画の筋立てはともかくとして、科学的な設定その他は、他の映画からのパクリばかりです。遺伝子操作で1代限りの生物を作ったり、生き延びることがないはずの生物が繁殖するくだりは、『ジュラシック・パーク』や『ロスト・ワールド』からのいただきでしょう。〈ユダ〉をアリに例えているのは、『エイリアン2』の真似っこです。この映画ではご丁寧にも、最後に「エイリアン・マザー」ならぬ「ユダ・ファーザー」が登場してヒロインと一騎討ちします。

 ホラー映画としては「そこそこ恐い」というレベル。そもそもこの映画は、観客が「恐い」と思う前に「気持ち悪い」「きたない」「ばっちい」と思ってしまうのが難点です。下水を埋めつくすゴキブリの死骸から、そもそも嫌な予感がしたんだよね。映画は最初から最後まで、スリッパで踏み潰したゴキブリのコリコリヌメヌメした感触を思わせる気持ち悪さ。巨大ゴキブリの体液を体中に浴びた登場人物たちに、僕は最後まで感情移入できなかった。「汚いからあっち行けよ〜」って感じです。


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