ラブetc.

1997/10/29 シネセゾン試写室
シャルロット・ゲンズブールがふたりの男の間で揺れ動く恋愛劇。
主人公たちの暮らす家のデザインが素敵。by K. Hattori



 タイトルの『ラブetc.』とは、新聞の恋人募集欄のこと。口下手で女性が苦手なブノワと、心機一転人生をやり直そうと考えているマリーが新聞広告を通じて知り合い、やがて結婚します。ところがブノワの親友ピエールがマリーに恋してしまい、人妻となった彼女に猛然とアタック攻勢をかける。マリーはそんなピエールを迷惑に思い戸惑いますが、夫の唯一の親友ということもあって、完全に拒絶することもできない。夫に「あなたの親友に口説かれている」と正直に告白できず、何とか穏便にピエールを袖にしようとしているうちに……。

 ん〜、この結末には賛否両論あると思うぞ。観ている人の大半は、マリーの選択に戸惑ったんじゃないかな。少なくとも、僕はすごく戸惑いました。観客には彼女の心の揺れが見えにくいので、「なんでそうなるの!」とびっくりしてしまう。現代のパリを舞台にしていたと思ったら、最後はいきなり21世紀最初の日の海岸になるという飛躍にも驚いた。最後の食卓場面から、ラストシーンの海岸までの時間経過がわかりにくい。これは一体、何年後の風景を描いているんでしょう。

 内気なブノワをイヴァン・アタル、一途なピエールをシャルル・ベルリング、二人の間で揺れ動くマリーをシャルロット・ゲンズブールが演じています。私生活上でもパートナー関係にあるゲンズブールとアタルが、映画の中で夫婦を演じているのが面白い。(ゲンズブールとアタルの間には子供もいます。)主演3人のキャスティングは最初にアタルとベルリングの出演が決まり、二人の間ではどちらがブノワを演じ、どちらがピエールを演じるかがなかなか決まらなかったそうです。やがてゲンズブールの出演が決まると、ブノワ役は自動的にアタルに決定したとか。確かにその方が自然です。

 3人の登場人物がそれぞれ語り手にもなる、主役3人体制のドラマです。この映画はひょっとしたら、誰に感情移入しながら観るかで評価が変わるのかもしれない。僕はブノワの視点から映画を観ていましたから、ピエールの想いが身勝手なものに思えたし、マリーの裏切りが許せなかった。僕はピエールのように恋に一生懸命にはなれそうにないし、マリーのように恋のために生活を捨てることもできそうにない。ブノワが嫉妬からどんどんへんてこな行動をとり始めても、僕は彼を許してしまいます。もっともピエールも肝心なところで一線を超えないなど、一応のモラルはわきまえているようです。恋に狂った男も、最後の最後には正気に踏みとどまる。そんな中で、恋の荒波の中に自ら飛び込むのは、女性であるマリーなんですね。三者三様の恋に対する態度が鮮明に描き分けられていて、観る人は3人のうちの誰かに、必ず感情移入できるんじゃないでしょうか。

 マリーとブノワが暮らす家のデザインが秀逸。もともと商店だった建物を住居に流用しているのですが、入るとすぐにカウンターがあって、その向こうに居間と台所、2階がマリーの仕事部屋。こんな家に住んでみたい!


ホームページ
ホームページへ