フリーズ
地獄の相続人

1997/10/21 日本ヘラルド映画試写室
クリストファー・ランバート主演で描かれる、アメリカ開拓の裏面史。
映画作りの志は高いが作品としては力不足。by K. Hattori



 舞台はゴールドラッシュに湧く19世紀末のアラスカ。クリストファー・ランバート扮する主人公ハドソンは、インディアンの聖地「ノース・スター」を乱暴な金掘りたちから守るため、自分の名前で採掘件を登記することにした。ハドソンはインディアンと白人との混血で、幼い頃からインディアンに育てられた経歴の持ち主。インディアンの聖地は、彼にとっても聖なる場所なのだ。だが欲に目がくらんだ白人たちには、そんな彼が単なる邪魔者にしか映らない。町の鉱業組合を牛耳るマクレノンは、殺し屋を雇ってハドソンを始末し、書類上は彼の所有物である「ノース・スター」を手に入れようとする。

 原題の『The North Star』を、『フリーズ/地獄の相続人』という邦題にしてしまうセンスにはびっくり仰天。公開規模も小さいし、これは完全にビデオ市場しか視野にないタイトルですね。タイトルだけ聞くと、思い切りB級のちゃちな活劇映画を想像しますが、これでも中身は大真面目。しかも映画のできもそんなに悪くないときてますから、映画は観てみるまでわかりません。

 主人公ハドソンと敵役マクレノンの対立は、黒澤映画をうまくアレンジしているようにも見えます。善悪対称的な人物のルーツが、じつは同じようなところから出発しているという設定は、どう見ても黒澤映画そのもの。マクレノンの愛妾が徐々に愛人の悪党ぶりに気付くという展開は、『悪い奴ほどよく眠る』の香川京子みたいです。ただし、こうした人間ドラマに重きを置くのか、アクション映画に徹するのかという見極めが中途半端で、それがこの映画を弱くしている。黒澤明は撮影現場でいくらでも粘れるから、ドラマと活劇がきちんとフィルムに定着できるのですが、この映画には生憎そこまでの体力がなかったみたいです。

 寒冷地での撮影に加え、吹雪の中、雪山の上、水中の撮影まであって、撮影がかなり大変だったことを想像するのは簡単ですが、活劇のテンポの悪さをそれだけで説明することはできません。素直に考えれば、これは監督がアクションを苦手としていた結果なんじゃないでしょうか。室内でのアクションシーンもあるんですから、天候やロケは言い訳になりませんよね。

 人物像をもう少し書き込んでほしい。例えば、クリストファー・ランバート演ずる主人公ハドソンの行動に、もっと強い動機づけがほしいのです。今のままだと、彼は単なる正義の味方にしか見えません。ハドソンもまた自分の出自と血の問題に悩みながら成長し、それを克服したという描写が入ると、マクレノンの屈折したサディズムと好対照になってきたはず。マクレノンの自分自身の血に対する憎悪が、ハドソン追跡の原動力になっていることを、もっと強調してよかった。そうすれば、ラストで彼が見せる放心したような表情の理由も、もっと明確になってきたと思う。

 志は高い映画だと思うのですが、少し力が及ばなかった。観客に次回作に期待させる映画です。


ホームページ
ホームページへ