冷たい血
AN OBSESSION

1997/10/16 TCC試写室
『WILD LIFE』が面白かった青山真治監督の最新作は、
暗くジメジメした世界に逆戻り。by K. Hattori



 前作『WILD LIFE』で僕を熱狂させた青山真治監督の新作映画。前作はその前の2作『Helpless』『チンピラ』とは打って変わった明るいタッチの青春劇で、それまでの暗く陰うつな雰囲気になじめなかった僕を大いに喜ばせましたが、今回の『冷たい血』はまた最初の路線に戻った感じの、暗くジメジメした物語になっています。暗くジメジメした世界を描くこと自体は否定しませんが、内容的に掘り下げが足りないというか、表面がつるりとした印象で物足りなかった。新鮮さがないのです。

 ヒロインの遠山景織子は、物語の中で違和感があったなぁ……。この若い女優は、人物の持つ「陰」を演じられないので、どうしても印象が薄っぺらになる。『ポストマン・ブルース』の彼女はそれでもよかったんだけど、『冷たい血』は駄目だなぁ。「私を撃って」と恋人にせがむシーンは『ポストマン・ブルース』と『冷たい血』の両方にあるけど、『ポストマン・ブルース』の方が断然よくできていると思う。

 映画にはふたりの射殺犯が登場します。新興宗教幹部を射殺する柳ユーレイと、犯人追跡中に重傷を負った刑事から拳銃を奪い、その銃で連続射殺事件を起こす鈴木一真です。この2件の犯罪が映画の中でどのようにリンクしているのか、僕にはちょっとわからなかった。犯罪同士が直接リンクしていなかったとしても、犯人を追う石橋凌の中では、ふたつが象徴的にリンクしていなければならないと思う。そうした関係性が、この物語には希薄です。主人公は犯人を追う中で、何を得たのだろう。

 病院で石橋凌が柳ユーレイに出会う場面は、ちょっとサイコホラー調の雰囲気でした。でもこれも、同時期に公開される黒沢清の『CURE/キュア』と比較されると弱いでしょう。この映画には、隠された得体の知れない何かが秘められているような気もするんですが、それが観客である僕には伝わってこなかった。トラックの荷台に乗る防護服姿の男たちは、一体何を象徴しているのか。地図の上に描かれた5角形にはどんな意味があるのか。柳ユーレイの謎めいた台詞の意味。「愛を証明するには殺すしかない」という言葉の重み。これらすべてが中途半端で、そこがひどく物足りなく感じられるのです。

 ひとつひとつのエピソードには面白い物もあるのに、それが次のエピソードにつながって行かないのは不思議です。そもそも主人公のキャラクターが弱いんじゃないかな。彼と妻の関係も踏み込みが浅いし、親友の刑事との関係も中途半端に処理されている。主人公が片肺をなくしたという設定も、あまり活かされていなかった。主人公がなぜひとりで犯人を追わなければならないのかも、動機説明が不足しています。主人公中心に物語をがっちりと組み上げてしまい、その上で枝葉のエピソードをちりばめると、もっと腰の座った映画になったと思う。今ある映画もそれなりに「骨太」なんですが、どうも体格のバランスが悪いような印象を受けます。もっと正々堂々と、正攻法で勝負して欲しいと思いました。


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