アンダーワールド

1997/10/06 東和映画試写室
ジョー・マンテーニャが演技派俳優としての力量をたっぷり見せる。
シュールでスタイリッシュな異色ギャング映画。by K. Hattori



 『ハードロック・ハイジャック』のDJ役や『赤ちゃんのおでかけ』の誘拐犯役など、コミカルな役の印象が強かったジョー・マンテーニャが謎めいたギャングに扮し、観客を震え上がらせる映画。(配給会社の資料では「ジョー・モントーニャ」になってますが、MANTEGNAはどう読むのが原音に近いんでしょうね。今まではずっと「マンテーニャ」でしたけど……。)ジャンルとしては「ギャング映画」の部類に入ると思うのですが、各エピソードのつなぎや登場人物の行動にシュールなところがあって、ひとくちに「ギャング映画」としてくくってしまうことがはばかられる。個々のエピソードや描写はリアリズムなんだけど、舞台装置や道具立てとの対比や、人物配置の妙味などで、映画全体にシュールレアリスティックな雰囲気を生み出している。

 7年前、部下の裏切りによって縄張りを奪われ、傷を負って植物状態になったギャングのボス。7年後に出所したボスの息子ジョニーは、裏切った配下のギャングたちを次々血祭りに上げて行く。裏切りの首謀者だった謎の男、リチャード・エセックスの正体を探すミステリーは、ちょっと『ユージャル・サスペクツ』みたいでもある。服役中に心理学を学んだというジョニーが、自分や他の登場人物たちの行動に精神分析的解釈をしてゆく場面は、サイコスリラー風にも見えてくる。

 陽気でユーモアのセンスも持ち合わせながら、裏切り者に対しては冷酷に復讐することをためらわないジョニーを演じたのは、『サンドラ・ブロックの恋する泥棒』などに出演していたデニス・レアリー。彼につきあって、復讐劇の目撃者になることを強いられる旧友フランクを演ずるのがジョー・マンテーニャ。マンテーニャは軽薄で優柔不断そうに見えるいつも通りのキャラクターとして登場し、やがてその下にある秘密の素顔が少しずつ顔をのぞかせるという設定。クライマックスで見せる彼の表情は、今までのどんな映画で見たものより迫力がありました。マンテーニャはマメットの「グレンガリー・グレン・ロス」(映画化タイトル『摩天楼を夢見て』)でトニー賞をとったこともある、ブロードウェイ出身の名優です。コミカルな役柄は、彼の一面でしかなかったんですね……。今さらながら感心してしまった。

 監督のロジャー・クリスチャンはこの作品が日本初紹介になりますが、もともと映画の中の美術パートを中心にキャリアを積んできた人。この映画でも、絵作りに関してはものすごく凝ったところを見せてます。低予算の映画だと思うんですが、画面にものすごく奥行きがある。陰影に富んだ画面構成と、スローモーションの多用など、撮影は「かっこつけすぎ」と感じる部分があるほど。壮絶なガンアクションなど、活劇場面での見せ場もたっぷり用意されている。

 脚本兼任で出演していた、ネッド・リンチ役のラリー・ビショップ、殺し屋トッド役のジミー・スキャッグスなど、クセのある俳優のオンパレードでした。


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