キャリア・ガールズ

1997/09/30 東宝第1試写室
『秘密と嘘』のマイク・リー監督最新作は女同士の友情を描く青春ドラマ。
カトリン・カートリッジ演ずるハンナのキャラクターが見事。by K. Hattori



 『秘密と嘘』でカンヌ映画祭グランプリを受賞した、マイク・リー監督の最新作。家族の中に横たわる秘密が明らかになる過程を通して、家族や肉親の絆を描いた『秘密と嘘』の深刻なトーンとは打って変わって、この『キャリア・ガールズ』は明るく楽観的で若々しいトーンに彩られています。僕は圧倒的にこっちの方が好きだなぁ。映画のテーマは前作の「家族」「肉親」というエロス的な結びつきから、「友情」という個人と個人の結びつきになっている。物語の構成も、前作では完全に事件を時系列につないで行く方法が取られていましたが、今回は回想シーンと現在進行形の事件が同時に描かれる手法に変わっている。使われている音楽もポップス系で、物語のテンポからしてぜんぜん違うんです。「『秘密と嘘』の凄さはわかるけど、ちょっと趣味じゃなかったなぁ」という人はたくさんいると思う。そういう人はこの映画を観て、マイク・リーという監督の引き出しの多さを再確認してほしいと思います。

 詳細な脚本を作らず、監督が設定した場面から芝居を組み立てて行く手法は今回も健在。こうした方法を取ることで、役者は機械的に台詞をしゃべる監督のあやつり人形であることが不可能になり、自分自身で役柄の根本から突き詰めて考えることを強いられる。『キャリア・ガールズ』では、主人公のハンナとアニーのキャラクターがじつに生き生きしていますが、演じているカトリン・カートリッジとリンダ・ステッドマンは、映画に登場することのない役柄の過去までさかのぼって、役作りに没頭したそうです。こうした作業はものすごくエネルギーを必要とすることだと思うんですが、それだけの成果が映画の中にきちんと現われている。ハンナとアニーの長い人生の中で、映画に登場するのはほんの数日の出来事に過ぎません。その「ほんの数日」を通して、それ以外の「長い人生」を感じさせるのがこの映画なのです。

 口の悪いハンナ・ミルズのキャラクターが素晴らしい。他人に対して攻撃的でとげとげしい口の利き方しかできない性格ながら、その裏側には繊細な精神や優しさを秘めている女性像を、じつにリアルな存在として感じさせます。最初は「性格の悪い女だなぁ」と思っていた観客も、最後に彼女の優しさや強さや弱さの全部を含めて大好きになっているはず。演じているカトリン・カートリッジは『ビフォア・ザ・レイン』の女編集者役や、『奇跡の海』で主人公の義姉の役で観ている顔ですが、ここまで熱っぽい芝居をする人だとは思わなかった。逆に言えば、マイク・リーという監督がそこまで役者を追い込んで行くということなんでしょうね。

 最近の映画としては短い1時間27分の上映時間に詰め込まれた内容を考えると、すごく充実した時間でもあり、また、あっという間に通り過ぎてしまう時間にも感じられます。ハリウッドの大作映画も大好きですが、こうした小さな映画にも、大作映画にはないダイナミズムや映画的な興奮が満ちているものです。


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