青春シンドローム

1997/09/24 東宝第1試写室
最近立て続けに観たクラピッシュ監督作ではこれが一番好き。
誰しもが持つ青春時代の苦い思いに共感。by K. Hattori



 セドリック・クラピッシュ監督の長編作品は、今のところ4本。『青春シンドローム』が公開されることで、全作品が日本に紹介されたことになる。公開順序が製作順ではないので、作家の理解という面ではチグハグなところもあるけどね。『猫が行方不明』は3作目、『百貨店大百科』はデビュー作、『家族の気分』が最新作で、この『青春シンドローム』は2作目にあたります。僕はクラピッシュ監督の作品を全部観ましたが、『猫が行方不明』や『百貨店大百科』に比べると、『家族の気分』だけが少し異質だなぁと思っていた。でも今回『青春シンドローム』を観ると、『家族の気分』に見られたシリアスに人間関係を掘り下げて行く作風は、デビュー2作目の『青春シンドローム』から色濃く現われている、クラピッシュ監督の持ち味であることがよくわかる。『青春シンドローム』でやっていることを、もう少し徹底させたのが『家族の気分』というわけです。

 高校時代の親友4人組が、卒業から10年後に病院の待合室で再開します。高校時代の仲間のガールフレンドが出産するのを見舞うためです。生まれる赤ん坊の父親は、4人組にとっても忘れがたい友のひとりですが、1ヶ月前にドラッグが原因で死んでいる。4人は深夜の待合室で、高校時代の思い出話に花を咲かせます。

 この手の映画はどうしても「昔は良かった……」「それに引き換え今の僕たちは……」「昔の気持ちを思い出せ!」的な流れになりやすく、それはそれで悪くない。例えば近日公開予定の『ロミーとミッシェルの場合』は、高校卒業から10年たった同窓会を機に、過去の自分たちの夢と今の自分たちの姿を対比させ、最後は夢に向ってスタートするところで映画が終わります。いってみれば、これが回想形式を使った青春映画の黄金律。でも『青春シンドローム』はフランス映画だから、なかなかそう一筋縄にはいかない。

 原題の『LE PERIL JEUNE』は「若さの災い」という意味だそうです。青春時代を光り輝く素晴らしい時代として描くのではなく、迷い傷つきながら、不器用でぎこちない生き方しかできない時代として描いている。恋に悩み、進路に悩み、友人関係に悩む年頃。そんな青春時代の中で、登場人物たちは何かを得て、何かを失って行く。この映画の中には、完全無欠のヒーローなんてひとりも登場しない。皆が自分の欠点をさらけ出しながら、愚かで滑稽な青春時代を精一杯生き抜こうとしている。その姿に僕はひどく感情移入してしまいました。

 学級委員の男子生徒が、憎からず思っている女生徒を相手に、何のアプローチもできないままぼんやりと突っ立っている場面があります。ああ、僕もこんな場面を何度通り抜けてきたことか! あと一歩というところで、逃した魚は大きかったのか小さかったのか……。僕の好きだった女の子たちは、今どこで何をしているんだろう。(ヨガの先生をしていたりして……。)そんなことを考えたら、ちょっぴり涙が出そうになった。


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