リトル・マーメイド
人魚姫

1997/09/19 ブエナ・ビスタ試写室
地上の生活にあこがれる人魚姫アリエルとの7年ぶりの再会。
「パート・オブ・ユア・ワールド」は名曲です。by K. Hattori



 今年の夏は新作映画『ヘラクレス』が不調に終わってさんざんだったディズニーですが、じつは本命はこの『リトル・マーメイド/人魚姫』のリバイバル公開だったんじゃないでしょうか。僕はこの映画を7年前の日本公開時にも劇場で観てますが、今回改めて観て、その面白さに新鮮な感動を味わいました。前回観たのは日本語吹き替え版で、今回試写室で観たのは英語版(原語版)。どちらがいいかは一概に言えませんが、個人的には最初に観た吹き替え版の印象が鮮烈だったなぁ。歌の内容が物語を後押しするタイプのミュージカルですから、歌詞の抄訳を字幕で読まされるより、歌の内容まできっちり吹替える日本語版の方がいいのかも……。

 この映画の音楽を担当しているのは、作詞のハワード・アシュマンと作曲アラン・メンケンのコンビ。オフ・ブロードウェイのヒット作『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』で才能が認められてディズニー映画に活躍の場を移し、『リトル・マーメイド/人魚姫』を皮切りに『美女と野獣』『アラジン』とコンビでの作品が続いて行く。『リトル・マーメイド/人魚姫』ではトリトン王直属の宮廷音楽家セバスチャンの歌う「アンダー・ザ・シー」がヒットしてアカデミー主題歌賞まで取りましたが、むしろ主人公アリエルのテーマ曲である「パート・オブ・ユア・ワールド」の美しさが心に残ります。海底に沈む難破船の中で、自分の集めた人間界の道具類に囲まれてアリエルがこの曲を歌う場面は、アニメーションの素晴らしさもあって、この映画の中でも屈指の名場面になっています。僕は最初にこの映画を観たときこの場面で涙がこぼれましたが、今回もホロリときました。

 この映画はディズニー・アニメにブロードウェイ・ミュージカルの空気とテクニックを取り入れ、ディズニー・アニメに再び黄金時代を取り戻した作品です。ただし、この映画を作り始めた時点ではまだ「これからはミュージカルで行くんだ!」という確信はなかったと思う。この次すぐに『ビアンカの大冒険/ゴールデン・イーグルを救え』を作ったりしてますしね……。ミュージカル路線が定着するのは『美女と野獣』からで、この作品は舞台作品に翻案されてブロードウェイに逆輸出されたことはご存知の通りです。『リトル・マーメイド/人魚姫』は、そのさきがけとなった作品です。

 原作はアンデルセンの「人魚姫」ですが、筋は大幅に変えてあります。一番の違いは、最後がハッピーエンドになる点。プレス資料にはタレントの森尾由美が母親の立場から「(子供が)小さいうちはなるべく物語の中だけでも死や悲惨なことは避けて通りたい。そういう面からも、子供に安心してみせられる作品ですね」と語っている。ん〜、こうした考えには納得できないけど、そう観る人もいるんでしょうね。この作品は「少女の報われない愛の物語」から物語の骨組みを借りて、「父親の保護から抜け出して自分の道を探そうとする少女の成長物語」にしているところが面白いんだけど……。


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