電話でアモーレ

1997/09/12 ユニジャパン試写室
凝ったストーリー展開、スピード感あふれる筋運び、魅力的な登場人物。
三拍子揃ったスペイン製のサスペンス・ラブ・コメディ。by K. Hattori



 ロバート・デ・ニーロにあこがれるスペインの演劇青年ビクトルは、受けるオーディションでことごとく失敗。最後のチャンスと応募したハリウッド映画のオーディションだが、配役担当者がスペインに来る前に生活費が底をつく始末。生活のためにやむを得ず、ビクトルはテレフォン・クラブでバイトを始める。そこから後は、物語が二転三転。最後は恋に仕事に大成功して、見事なハッピーエンディングになりますが、そこまでがワクワクドキドキ、一瞬も目の離せない展開です。ノーマークの作品でしたが、これは絶対オススメだ!

 映画好きにはたまらない場面の連続。ビクトルの父親が映画館の客席係だというエピソードを冒頭に持ってきて、観客の気持ちをグイとつかむ。(上映中の映画は『007/カジノ・ロワイヤル』だ。)物語自体が「映画俳優のオーディション」を背景にしているため、あの手この手のオーディション場面が楽しくてたまらない。特に僕は往年のMGMミュージカルが大好きだったりしますから、主人公がオーディション会場で突然「Make 'Em Laugh」をスペイン語で歌い始めたときはイスから転げ落ちそうになりましたし、ハリウッドから大物ゲストとして招かれたスター女優の名前が「デブラ・レイノルズ」というのにも驚きました。「Make 'Em Laugh」は名作『雨に唄えば』の中でドナルド・オコナーが歌っていたナンバー。「デブラ・レイノルズ」は同じく『雨に唄えば』に出演していた女優「デビー・レイノルズ」の名前をもじったものでしょう。こたえられません。

 原題の『BOCA A BOCA』は「MOUTH TO MOUTH」という意味だそうです。これは主人公の父親が映画館で女性客を人工呼吸で蘇生させるエピソード(終盤で似たような場面が再登場します)と、主人公が生活費を稼ぐバイトに始めたテレフォンセックスとをひっかけているのでしょう。なかなかエッチでよろしい。

 主人公ビクトルを演じたハブエル・バルデムという役者に僕はまったく馴染みがなかったんですが、ヒロインのアマンダを演じたアイタナ・サンチェス=ギヨンは『雲の中で散歩』でキアヌ・リーブスの相手役だった女優だそうです。う〜む。役柄のイメージが全然違うから、うまくオーバーラップしないなぁ……。スペイン映画では、先日観た『ビースト/獣の日』に出演していたマリア・グラツィア・クチノッタも、『イル・ポスティーノ』の女優だと気がつかなかったんだよなぁ……。スペイン映画あなどりがたし!

 登場するキャラクターたちが皆一生懸命に生きている人たちばかりで、悪党(と言っても小悪党ばかりだが)も含めて誰ひとりとして憎めない連中ぞろい。中でも、中年にして自らの同性愛傾向に目覚めた医師リカルドの人物像が素晴らしい。演じているジョセップ・マリア・フロタッツは、スペイン演劇界の重鎮だそうです。中年男の悲哀が感じられて、思わずホロリとする場面も数カ所。彼ひとりで物語にリアリティを生み出している。


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