のら猫の日記

1997/09/09 日本ヘラルド試写室
幼い姉妹のロードムービー+家族再生の物語(+犯罪映画)。
小さい映画ながら、胸に大きな温かさが残る。by K. Hattori



 原題の『MANNY & LO』は映画の内容を端的に表わしたタイトルですが、その邦題を『のら猫の日記』にした日本の配給会社のセンスはいい。幼い姉妹がのら猫のように各地を放浪する物語に、この邦題はぴったりと合っている。でも、内容に誤解を与えそうな気もするけど……。僕はタイトルだけ見て、幼い少女と猫の交流を綴った「動物映画」かと思ってました。邦題は難しいよな。

 飲んだくれの母親に捨てられ、それぞれ里親に出されていた11歳のマニーと16歳のロー。母親が死んだ後、ローは里親のもとからからマニーを連れ出し、母の残した車に乗って姉妹ふたりきりの旅を始める。ふたりに現金はない。だから食料品や日用品は商店で万引きする。ガソリンはローのボーイフレンドたちから「好意で」分けてもらう。気ままな旅は永遠に続くかに思われたが、やがてローが妊娠していることが発覚したことで、事態は急展開。医者に「中絶不可能」と言われたローは、赤ん坊を自力で生むことを決意するが……。

 この映画では、姉妹が次々ねぐらを変えながら移動して行く様子を「のら猫」に例えている。家具付きの売り家、モデルルーム、長期旅行中の家、別荘などに侵入し、いざとなったらすぐ逃げ出す。矢口史靖の『裸足のピクニック』にも、同じようなことをしながら生活している女性が登場していることを思い出した。『裸足のピクニック』では一種のファンタジーとして扱われてましたが、『のら猫の日記』の姉妹にはぐっとリアリティがあります。アメリカは広いから、こうしたことが可能なのではないかと思えてくる。

 ふたりがスーパーで「ミルク・チェック」をする場面で、ふたりの行動が現実社会と接点を持つ。アメリカの牛乳パックには行方不明の子どもの手配写真が載っていて、ふたりはそれで自分たちが手配されていないことを確認するわけです。(ちなみに、この牛乳パックは撮影用にダミーを作ろうと思っていたら、手配書の親たちから「ぜひ本物を使って!」との声が出たため本物を使っているらしい。)子どもを捜すための手配書が、子どもが逃げるための手掛かりに化けるというねじれた面白さ。

 出産を身近に控えたふたりが、手助けのためにベビー用品店で働く中年女性を誘拐したところから、物語は別の方向に転がり始める。見ず知らずの他人同士が共に生活する中で、一種の疑似家族に成長して行くドラマになる。さらわれてきたエレーンは、本当の家族や肉親の中では得られなかった安らぎや充実感を、ふたりの幼い姉妹との関係の中で見つける。姉妹たちも、他人であるエレーンとの関係を通して、世間や大人との付合い方を学んで行く。その間にも、いろんなエピソードが盛り込まれていて、まったく飽きずに映画を観ることができた。

 マニー役のスカーレット・ヨハンセン、ロー役のアレクサ・パラディノ、エレーン役のマリー・ケイ・プレイスなど、女3人の繰り広げるドラマがじつに面白い。小粒ですが、ぴかぴか光る宝石のような映画です。


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