グリッドロック

1997/09/04 徳間ホール(試写会)
原題の『GRIDLOCK'd』は「停滞した」という意味。
痛快で切れ味の鋭いブラック・コメディ。by K. Hattori



 バンドのメンバーであり、ルームメイトでもある女性がドラッグの過剰摂取で入院することになった時、残された男たちは自分たちもドラッグから足を洗おうと決意した。ドラッグの禁断症状に苦しみながら、そこから抜け出すために七転八倒する物語としては、つい最近『トレインスポッティング』という傑作があった。これもその手の映画かと思って油断していたら、じつはアメリカのお役所仕事を痛烈に皮肉るブラックコメディでした。

 アメリカには麻薬中毒患者を更生させるための専用施設があり、それは公費で賄われている。エイズが流行し始めたとき、それが麻薬中毒者の注射針共有で急速に拡大しているとわかり、公費で中毒者に注射針を配布したこともある国です。日本にいる僕のような人間からすると、「国の金で麻薬患者の面倒をみる」という発想自体がすでにブラックユーモアだと思いますが、アメリカではそれだけ、麻薬が深刻な社会問題になっているということでしょう。

 いわば緊急避難的に始められたアメリカの麻薬患者救済政策が、末端の行政レベルではまったく機能していない現実を、この映画は辛辣に描写します。何よりも緊急を感じている患者本人を役所間でたらい回しし、朝から晩まで役所の窓口から別の窓口へのハシゴしても、ついに最後まで何の結論も出ない現実。「お役所仕事」という言葉は万国共通のようです。(最近の日本の役所は、前に比べるとだいぶ物腰がやわらかになってると思います。「行政改革」という掛け声も、多少は現場に危機感をもたらしているのだろうか……。)

 というわけで結構「社会派」のこの映画ですが、内容は正面から行政の怠慢を告発するような「正義派」とはちょっと違う。何しろ主人公は社会から落ちこぼれたジャンキーたち。役人に食って掛かれば逆に担当者からコテンパンにやり込められる始末です。役所からすごすごと退散しながら、「この国はいずれ滅びるぞ!」と正論をわめき散らしているのがジャンキーという皮肉。

 ブラックユーモアは時として、作り手の頭の良さや知識をひけらかすような、ひどく高慢な描写に陥りやすいのですが、この映画ではそうした匂いがまったくしない。監督・脚本を兼ね、黒人大物ギャング役で出演もしているヴォンディ・カーティス・ホールは、「この映画は特にブラック・コメディを意識したわけではなくて、社会に対する皮肉を描こうと思ったら笑えるシーンが生まれたんだ」と述べています。狙って生まれた笑いではないから、かえって生々しくて面白いんですね。

 主演のティム・ロスとトゥパック・シャクールが、最高に息の合ったコンビぶりを見せてます。年令はロスの方が10歳も上なのに、年下のシャクールが兄貴分のようにふるまう場面があったりして面白い。シャクールは『ジュース』などにも出演していた若手黒人俳優で、ラッパーとしても有名だった人。昨年9月に銃撃されて死んでいます。存在感のある役者だけに残念です。


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