ビースト
獣の日

1997/08/28 シネセゾン試写室
スペイン生まれの傑作オカルト・アクション・コメディ。面白い。
オカルト版『スクリーム』みたいな映画。by K. Hattori



 マスコミ向けの試写会に行くと、入口でプレスシートというパンフレットみたいな物をくれます。よく「映画を観る前にパンフレットに目を通すことの是非」が議論になることがありますが、少なくともプロの映画記者の場合は、こうした資料に事前に目を通しておく方がいいんじゃないでしょうか。仮にストーリーを読んで内容を知ってしまったとしても、それが記事を書くときの妨げになるとは思えない。むしろ物語の先を知りたいという欲求から自由になれる分、最初から映画のディテールや演出術に集中できるような気もします。そして何より、監督や出演者のプロフィールを知っておくと、それだけで映画の観方が変わってきますからね。

 僕は新米の映画批評家のくせに、上映開始直前に試写室に飛び込むことがよくあります。そうすると、プレスの資料をもらっても、目を通す時間がない。それで何度か失敗しているのに、今回またもや大失敗。今回は資料に目を通す時間的余裕が十分あったにもかかわらず、それをしなかった。スペイン産のB級アクション映画ということでノーマークだったのですが、せめて出演者ぐらいはチェックしておくべきだった。この映画でオカルト番組の司会者であるカルヴァン博士のガールフレンド役を演じているマリア・グラツィア・クチノッタは、あの『イル・ポスティーノ』でマッシモ・トロイージの相手役を演じていた女優さんだそうな。後から資料を見ていて「え〜、それならそうと先に教えてよ!」と思ったけど後のまつり。ヘヴィメタ野郎のサンティアゴ・セグーラは、アントニオ・バンデラスとメラニー・グリフィス主演のラブコメ『あなたに逢いたくて』が代表作になってるぞ。どこに出てたんだ! 教えてくれ!

 僕はこの映画が大いに気に入ったのですが、それは単にキャスティングが意外に豪華だったという理由からではない。カトリックの神父が黙示録を解読し、反キリストの誕生を阻止するという、オカルト映画の定番的なテーマが今では逆に新鮮。聖書の解読、新たな予言、真実を知ったものに降りかかる危機、悪魔の呼び出し、反キリスト誕生の場所探しなど、この手の映画の定番的なエピソードをてんこ盛りにしながら、それを逆手に取ったり皮肉ったりしたギャグを次々に織り込んで行く。物語のスピード感を維持しながら、脇道にそれたり蛇行したりする構成は、作り手の頭の良さと、演出力の確かさを感じさせるものです。ひとつひとつのシーンの話の組み立てや絵作りに至るまで、映画的な魅力に満ちた面白さがぎっしりと詰まっている。とにかく面白い。

 この映画を観て思い出したのは、つい先日から日本でも公開が始まった、ウェス・クレイヴンの『スクリーム』。あちらは「スプラッター系」のホラー映画をハイブラウな笑いに転化させた快作。こちらは「オカルト系」のホラー映画を俎上に載せて、同じような技術で新しい映画に生まれ変わらせている。『スクリーム』に感心した人は、こちらもぜひ観てください。


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