SLEEPY HEADS

1997/08/22 シネセゾン試写室
ニューヨークで暮らす日本人を描いたインディーズ映画。
主演は野村祐人と永澤俊矢。by K. Hattori



 ニューヨークで活動する日本人映画監督、細谷佳史の長編映画デビュー作。ニューヨークで暮らす日本人の姿をコミカルに描いた小品です。出演は野村祐人、永澤俊矢など。テイストとしては、ジム・ジャームッシュやハル・ハートリーなど、インディーズ監督の作品に近い。なるほど、こういう映画をアメリカで撮っている日本人がいるのかという驚きはありますが、この映画が面白いかというと、どうなんだろう……。

 外国人がこの映画を観ると、「なるほど日本人とはこんなものかね」と面白がってくれるかもしれない。だけど日本人にとって、この映画の人物配置は使い古され過ぎていて、新鮮味があまりないように思える。最悪なのは、日系企業に勤める日本人女性アキコにまとわりつく同僚の男・市川と、ヒロシの対比でしょう。同じ高校を卒業しながら、片方は日系企業でアメリカ駐在員、片方はアルバイトしながらのアメリカ放浪。この極端な描き分けによって、主人公であるヒロシがずいぶんと安っぽい男に見えてしまった。対比させる男がステレオタイプで薄っぺらな造形だと、主役までそう見えてきてしまいます。ヒロシと対比させるのはケンタでなければならないと思うんですが、そうした描写は少ない。アキラのキャラクターも、掘り下げが不足している。

 結局この映画は、人物をそれぞれの場所に配置しただけで満足してしまって、それ以上のところまで踏み込んでいないんです。むしろほんの少し登場する、アパート隣室の日本人女性などの方が、人物としては面白くなっている。映画に描かれている部分だけでなく、その向こう側にある人生を感じさせるのです。他の主要人物は、その人の生き方やそれぞれの価値観を、言葉で説明してしまったことで、かえって人物像が小さくなった。ヒロシとケンタの人物像にそれは顕著です。アキラは途中で「死体」になってしまう分、謎めいた部分が残って面白いけど、それなら序盤でもっと突飛な行動をたくさんさせても良かったと思う。

 麻薬の多量摂取で「死んだ」ルームメイトを、ブルックリン大橋まで捨てに行くという物語。途中で出会ういろんなエピソードがあって、この死体運搬が一種のロードムービーのように見えてくる。サンドバッグの中に詰めていた死体を、ゴミバケツに詰め替え、道路を転がしながら運ぶくだりは最高に面白かった。この場面は、役者の言動が演技を超えてます。本当に投げやりな感じが出ている。一文無しになったふたりが、深夜の路上でクルマの窓ふきの仕事をはじめるあたりも面白い。日本の5円玉が、ニューヨーク地下鉄のトークンの代りになるという話は、覚えておくといつか役に立つかも……。

 永澤俊矢が木刀でチンピラたちを撃退する場面で、立ち回りに何の工夫もなかったのが気になった。あの場面は、永澤の立ち姿から「日本の侍」をイメージできなければならないと思うんですが、身のこなしや木刀の振り下ろしが「サムライ」になってないんです。


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