夕べの星

1997/08/20 UIP試写室
『愛と追憶の日々』の続編は、ハリウッド版『午後の遺言状』。
シャーリー・マクレーンが余裕の芝居を見せる。by K. Hattori



 83年度のアカデミー賞で5部門を独占した『愛と追憶の日々』の続編。主人公オーロラを演じるのは、前作と同じシャーリー・マクレーン。オーロラの恋人役でアカデミー賞を取ったジャック・ニコルソンも、終盤でチラリと顔を出す。役者が替わった役も多い。成長した孫たちを、ジョージ・ニューバン、マッケンジー・アスティン、ジュリエット・ルイスが演じている他、娘の親友パッツィー役がミランダ・リチャードソンに、家政婦ロージー役がマリオン・ロスに替わった。原作は前作と同じラリー・マクマートリーですが、監督賞・脚色賞を取ったジェームズ・L・ブルックスに替わって、ロバート・ハーリングが監督と脚本を担当しています。

 じつは僕、恥ずかしながら前作を観ていないのです。試写の前にビデオで予習しておこうと思っていたのですが、結局そのままにしてしまった。話が通じなかったらどうしようかと心配していたんですが、それは不要でした。この映画は、人生の黄昏を迎えた主人公がどう生き、どんな死を迎えるかというドラマです。孫たちの問題も描かれてはいますが、それはあくまでも人生の彩りとして描かれる脇のエピソード。「とりあえず心配事がなくなって安心して死ねます」と思わせるための物語でしょう。オーロラと若い心理カウンセラーの情事なども描かれていますが、これも物語を引っ張って行く力にはなっていない。物語の主人公はオーロラという女性の「個性的な生き方」そのものにあって、他のエピソードはそれを修飾するための従属物なのです。

 ベテランの俳優たちが繰り広げる老人たちの掛け合いは、年輪を重ねた重厚さと余裕を感じさせます。僕はこの映画を観て、新藤兼人の『午後の遺言状』を連想しました。『夕べの星』の方がずっと豪華なイメージだし、ぐっと明るいのですが、描かれているエピソードやテーマは同じだと思います。

 シャーリー・マクレーンが魅力的なキャラクターを熱演して「さすが」と思わせる貫禄を見せますが、彼女の貫禄がありすぎて、他の人物がかすんでしまった部分も多い。監督・脚本のロバート・ハーリングは、俳優たちの力に頼った本を書くタイプの人らしい。ハーリングが脚本を書いた『ファースト・ワイフ・クラブ』も、女優たちのキャラクターにべったり寄りかかった映画でした。コメディ映画ならそれでもいいのですが、今回のような人間ドラマでは、役者同士が拮抗してガシガシとぶつかり合う部分がもっと観たい。家政婦役のマリオン・ロスは比較的健闘しているけれど、カウンセラー役のビル・パクストンは大女優の貫禄に完全に負けているし、若手のジュリエット・ルイスもマクレーンの設定した芝居の枠内でしか演技していないように見える。

 オーロラが人生の記録を綴るアルバムを作るエピソードがありますが、この映画自体、アルバムの1ページずつで物語が短く完結したような構成で、全体を通すひとつの物語を持ち得ていないのは物足りない。


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