座頭市二段斬り

1997/08/15 銀座シネパトス2
座頭市が見せる逆手二刀流の立ち回りがすごい迫力。
昭和40年製作のシリーズ第11作。by K. Hattori



 タイトルにある「二段斬り」は、クライマックスの立ち回りで、座頭市が逆手二刀流を見せるところから来ているのでしょう。猛スピードの立ち回りの中で、使い慣れた仕込み杖と共に、いつの間にかカラミから奪った刀を持って大暴れ。逆手斬りという不安定な型で、しかも左右二刀を振り回すという無茶な場面を、勝新は抜群の運動神経で切り抜ける。どんなにスピード感のある殺陣でも、刀身に体重が乗っていないと「人を斬る」というリアリティは出せないものですが、勝新太郎は逆手二刀に渾身の力を込め、バサバサと寄せ手を斬り倒して行く。お話には何かと難のある映画ですが、この立ち回りを観ただけで胸がスッとします。

 入り組んだ細い路地で斬り合をさせるなど、市が一度に相手にする人数を制限して、立ち回りに緊迫感とリアリティを生んでいます。ただし最後に市が、黒幕を表通りまで連れてきてから斬り倒すのは疑問。女郎屋で暴利をむさぼっていた人物を当の女郎屋の前で殺すのは、因果応報という面ではわかりやすいのですが、これは市の剣が基本的には自衛のためのものだという約束事を踏み外している。無抵抗で命乞いをする相手を斬り殺してしまうのは、少し合点が行かない。相手にも最後の逆襲の機会を与えておいて、その上でバッサリやるのが筋です。

 このシリーズは主人公がやくざのケンカに巻き込まれ、最後に凄腕の用心棒と一騎討して終わるというパターンが多いのですが、この映画で敵役の用心棒を演じた加藤武は、どう見ても市の相手としては力量不足。この人はしゃべると持ち味の明るさが外に出てしまっていけません。声がへんに甲高いんでしょうかね。この役はもっと別の役者にやらせるべきだったし、加藤武をキャスティングするなら、もっと寡黙な役にすべきだった。偉そうにベラベラしゃべるわりには、口ほどにもない奴でガッカリです。この浪人の腕を見せる場面が弱いのも、この映画の失敗。この浪人は市の師匠の按摩を斬った男ですが、刀をぶら下げた侍が、盲人ひとりを斬り殺すのにどれほどの腕が必要か。騎乗の役人に騎馬で追いすがり、後ろからバッサリという場面も、黒澤の『隠し砦の三悪人』には遠く及ばない。もう一工夫必要だと思いました。

 三木のり平扮するツボ振りの男とその娘のエピソードは、本筋には関係ないけど面白かった。三木のり平が座頭市の物まねをするなど、コミカルな場面は脱線気味のところもありますが、これもシリーズ10作目になると許されることなのでしょうか。幼い娘役の少女は、今や大晦日の夜の名物女となった小林幸子。それにしても、年月は人間をかくも変えるものか。

 この映画で一番すごい殺陣は、後ろから無言で斬り込んできた浪人を、座頭市が一瞬で斬り倒す場面。気配を感じた市は、振り向きざまに浪人を斬った後、そのまま一回転して刀を鞘に納めてしまう。一緒に歩いていた少女には、何が起ったのかわからない瞬時の早業。「後ろを振り向いちゃいけねぇよ」という台詞も効いてます。


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