草の上の月

1997/08/14 KSS試写室
'30年代のパルプ小説家、ロバート・E・ハワードの伝記映画。
レニー・ゼルウィガーが恋人役で登場。by K. Hattori



 シュワルツェネッガー主演の映画『コナン・ザ・グレート』の原作者、ロバート・E・ハワードの伝記映画。映画は彼の恋人であったノベリン・プライスの視点を借りて、若くして自ら命を絶ったハワードの最後の数年間を綴って行く。ハワードを演じるのは、『最高の恋人』でふられ男のドミニク、『エド・ウッド』でオーソン・ウェルズ、『フィーリング・ミネソタ』では弟に新妻を奪われるサムを演じていた、巨漢ビンセント・ドノフリオ。物語の語り手ノベリンを演じるのは、『ザ・エージェント』の好演も記憶に新しいレニー・ゼルウィガー。監督はこれがデビュー作となるダン・アイルランド。

 配給会社はこの映画を「レニー・ゼルウィガー最新作」として売りたいようですが、映画の内容を観ると、それにはちょっと無理があると思う。ゼルウィガー扮するノベリンは、この物語にひとつの視点を提供するだけで、実際の主人公はロバートであることが歴然としているからだ。ビンセント・ドノフリオは、繊細な精神を持ちながら奇行の目立ったロバート・E・ハワードという人物を、陰影に富み、情感豊かな演技でスクリーンによみがえらせた。筋骨たくましい半裸の野蛮人たちが、腕っ節と無骨な剣ひとつで怪物や魔物と戦う世界を描きながら、それを書いている本人は極めてシャイな人物。世の中のありとあらゆるモラルを超越した世界を描きつつ、本人は病気の母親を思って気も狂わんばかり。こうした作家の内面と外面との矛盾がドノフリオという役者の中でひとつになり、ロバート・E・ハワードという人物の息遣いを再現しはじめる様子は見事です。

 行動や感情の振幅が大きいロバートに比べると、ゼルウィガー演じたノベリンのキャラクターは平板で面白味がない。ロバートとの恋愛や友情を通して、彼女がどう変わっていったのかという点が弱いし、ロバートと家族の描写に比べると、ノベリンの家族の描写が薄すぎる。彼女にまつわるエピソードがもうひとつぐらい加わると、二人の人間の人物配置としても面白くなったと思います。映画を観ていると、ロバートのノベリンに対する気持ちは痛いほど伝わってくるのですが、ノベリンのロバートに対する気持ちがもうひとつわかりにくい。彼女にとってロバートは、恋人だったのか、友人だったのか、それとも別の何者かだったのか。僕がぼんやりしていたのかもしれないけど、もう少しこのあたりを強く押し出した方が、物語の通りはよくなると思いました。

 ロバート・E・ハワードはパルプマガジン専門の小説家で、生前は1冊の単行本も発行されなかったらしい。現在は多くの作品がペーパーバックになっているし、邦訳作品が文庫化されていたこともあるような……。IMDbによれば、映画化作品は『コナン・ザ・グレート』『キング・オブ・デストロイヤー』『レッド・ソニア』の3作品に加え、昨年製作された『Kull the Conqueror』の合わせて4本。原作者の伝記映画を観ていたら、無性にこれらの映画が観たくなりました。


ホームページ
ホームページへ