ポネット

1997/08/06 ヘラルド映画試写室
主人公を演じた4歳の少女ヴィクトワール・ティヴィソルにびっくり。
ベネチアで主演女優賞を取ったのにも納得。by K. Hattori



 交通事故で母親を亡くした少女が、それを乗り越え成長して行く過程を綴ったフランス映画。少女ポネットを演じたヴィクトワール・ティヴィソルは、この映画でヴェネチア国際映画祭の主演女優賞を受賞した。この映画にはポネットの父親やおば、先生たちも登場するが、物語は常に主人公ポネットの視点で描かれている。映画の最初から最後まで、ポネットは出ずっぱり。4歳の少女が泣いたり笑ったり、表情を千変万化させる様子は「本当にこれが演技なんだろうか」と思わせるぐらい生々しい。監督はいったいこの少女に、どうやって芝居をさせたんだろうか。外国映画にはものすごく上手い子役が登場して日本人の観客を驚かせてきましたが、この『ポネット』はその中でも最大限の驚きを味わわせてくれます。

 この映画には、子供だけが登場する長い芝居がいくつもある。子供同士の長い台詞の応酬を、カメラがワンカットで拾う場面も多い。周囲の大人たちがフォローできない部分で芝居が進行するため、撮影現場は常に緊張していたと思う。この企画を通して、実現させた監督はじめとするスタッフはすごいことを成し遂げたと思う。この映画を観てしまうと、映画の中の子役の芝居に対して「子供だから」という言い訳ができなくなる。もっとも、ティヴィソル以外の子役たちが子役然とした芝居の枠内で演技をしているところを見ると、やはりポネット役のティヴィソルだけがずば抜けていたのでしょう。

 子供が長く演技をしていると、役と自分自身とを混同する恐れがあるそうです。撮影には専門の幼児精神科医が同席し、定期的に子供たちと面接し、心の状態を見守りながらの撮影になったといいます。僕は映画を観ながら「この少女はポネットという役柄と自分自身とが一体になって、区別さえつかないのだ」と思ったのですが、この精神科医によればそうした事実は一切ないそうです。「これは、ママをなくした小さな女の子のお話です」と監督に説明されたティヴィソルは、撮影中も自分と役との間に常に一定の距離を置きながら、ポネットという少女を演じきったといいます。すごいよね。ヴィクトワール・ティヴィソルは、4歳にしてもう大女優なのです。

 幼い子供の真剣な願いが最後に奇跡を起こしますが、このエピソードは『汚れなき悪戯(マルセリーノ パーネ ヴィーノ)』というより、相米慎二の『お引越し』に近いと思いました。人知を超えた超常現象というより、少女の成長過程で現われる必然のように思えたのです。この場面を少女の幻想と解釈することも可能かもしれませんが、僕はありのままの現実と受け止めたし、そう感じさせるに無理のない話の流れになっています。

 感動的な映画だとは思いますが、僕にとっては涙がどっとあふれるといった類の映画ではありませんでした。子供が真剣すぎて、アソビがないんです。映画全体の雰囲気に、余裕がなくて窮屈な感じがするのです。映画を作る側の一所懸命な気持ちには感銘を受けますが、そこから感動へのステップが踏めないまま終わった映画です。


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