釣りバカ日誌9

1997/07/29 松竹第1試写室
西田敏行のハマちゃんと、三國連太郎のスーさんは今回脇役。
主役はゲストの小林稔侍と風吹ジュン。by K. Hattori



 寅さん映画の併映作品としてスタートしたこの映画も、今では寅さんなき松竹の興行を支える看板映画になりました。この映画の魅力は、レギュラー出演陣が演じる軽妙な芝居の応酬にあるのでしょう。西田敏行、三國連太郎、谷啓などのレギュラー陣が見せる芝居は、どこまでが脚本の台詞で、どこからがアドリブなんだかわからない自由奔放さを感じます。三課でハマちゃんと佐々木課長がからむ風景など、細川ふみえをはじめとするその他大勢の出演者たちが、必死に笑いをこらえているように見えますもんね。こうした「笑いを我慢する様子」は、ゲストが出演するシーンでも見られるもの。クルマの中でハマちゃんが電話をする場面では、横に座っている小林稔侍が必死に笑いを隠そうとしてるように見えました。

 これは現場でどんな風に撮影をしているのでしょう。当然シナリオはあるんでしょうけど、主役クラスの台詞はある程度演じる俳優たちに任されているんでしょう。ここからここまでという演出の枠を決めて、その範囲にある芝居が面白ければどんどん採用して行くというスタイルだと思います。ジム・キャリーの『ライアーライアー』が同じようなスタイルで撮影をしていました。役者のアドリブを生かすには、いい方法だと思います。ハマちゃんとスーさんの会話、ハマちゃんと佐々木課長の会話などが生き生きしているのは、その場で行われている芝居がアドリブを含んだ本物の会話になっているからでしょう。映画冒頭にある、釣り舟の中でのハマちゃんスーさんの会話の妙味などは、シナリオの字面からは決して現われてこないものだと思います。

 レギュラー陣がここまで奔放な芝居をすると、ゲスト出演者たちは芝居がやりにくそうです。今回一番気の毒なのは小林稔侍とその息子役の若い役者。ハマちゃんの奥さんミチコたんに扮した浅田美代子も、家の中でハマちゃんとスーさんの会話が始まると、何となく居心地が悪そうにしてます。ふたりの芝居が強烈すぎて、その他の人を画面から押し出してしまうのです。

 子持ちのバツイチ男小林稔侍は行き付けの店のママ風吹ジュンに惚れていて、相手もそれを何となく知っているけど、互いにそれを口に出すことはない。やがて風吹ジュンは店を引き払って郷里に戻ることになり、思いを伝えられないまま小林稔侍は大いに落ち込む。このあたりは中年男の不器用さや誠実さが感じられて、なかなか見応えのあるエピソードになってます。店を閉める日に、小林稔侍が他の酔客にからんで大暴れする場面は、彼の気持ちが痛いほど伝わってきて切なかった。雨の中しょぼしょぼと帰って行く姿は、ほとんど仁侠映画。男と女の情念がほとばしる、情感あふれる場面になってます。

 会社の中でのハマちゃんの傍若無人ぶりは、いささか常軌を逸脱していてリアリティがないし、スーさんが小林稔侍の離婚歴を「君には問題がある」と指摘する場面は余計なお世話だと思いましたが、それらに増して面白い場面が目白押し。とても楽しい映画でした。


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