フィフス・エレメント

1997/07/25 ヘラルド映画試写室
リュック・ベッソン監督の新作は特撮がうなる大馬鹿SF大作。
内容の馬鹿馬鹿しさはほとんどコメディ。by K. Hattori



 皆が絶賛する『レオン』を駄目な映画だと断言してはばからない僕ですから、ベッソンがSF大作を作ると聞いても「どうせ駄目だろう」と思っていた。予想に違わずこの映画は「全然駄目!」なんですが、僕は面白く観てました。この面白がり方は、『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』を面白がっているのと同じ種類のもの。つまり「物語なんてどうでもいいけど、映像はすげ〜や」という感動であり感激です。物語やテーマ性は大馬鹿者レベルですから、いちいちそれに文句言ってたってしょうがない。僕は原色ギトギトの色彩センスや、露骨な他の映画からの引用などをニヤニヤ笑いながら観てました。『レオン』のドラマ性に感激してしまった人がこれを観ると、たぶんイスから転げ落ちます。僕はそれを想像して、またニヤニヤ笑ってしまうのです。

 物語は本当に下らない。下らなすぎるぐらいに下らない。大仰に神話的世界を匂わせたりしてますが、物語そのものにセンス・オブ・ワンダーを感じることはない。物語はリュック・ベッソンが少年時代から温めていたオリジナルだと言うけれど、どこもかしこも古今のSF映画やアクション映画からの寄せ集めふう。物語自体に新しさは感じないし、「愛が地球を救う」というテーマも陳腐。ただしこうした馬鹿ぶりが無邪気に見えるのが、この映画の印象を好ましくしている。『レオン』は小賢しさが鼻についてうんざりだけど、そこでウケた方法論を繰り返して商売にしないところがいいじゃないですか。『フィフス・エレメント』をもっとドラマチックな男女のドラマに仕上げることは可能なんだろうけど、そんなことすっ飛ばしてますもんね。僕はそこが気に入った。

 ジャン・ジロー“メビウス”とジャン=クロード・メジャーズが参加したプロダクション・デザイン。ゴルチエの衣装デザイン。エリック・セラの音楽。デジタル・ドメイン社のSFX。出演はブルース・ウィリス、ゲイリー・オールドマン、イアン・ホルム、クリス・タッカー。ヒロインにはモデル出身のミラ・ジョヴォヴィッチ。これだけの要素をひとつにまとめ上げるには、物語が単純でしかも馬鹿な方がいいのです。単純な物語は観客を置いてけぼりにしないし、馬鹿な物語はプロットの破綻をカバーできる。この内容で緻密なプロットなんて組まれたら、アホらしくて観てられないよ。

 この映画の中で面白かったのは、じつはブルース・ウィリス演ずる主人公でも、ヒロインのミラ・ジョヴォヴィッチでもなく、おしゃべりなDJを演じたクリス・タッカーでした。この人物の存在が、映画をちゃんとマンガにしてくれてる。ウィリスやジョヴォヴィッチ、オールドマンなどは、なぜかみんなシリアスな芝居をしてるんですよ。そのシリアスな様子を蹴散らして歩くのがタッカー。この人がいなかったら、この映画の評価はもっとずっと低くなっています。

 観終わって何も残らない映画ですが、ビジュアル・センスだけは観るべきものがあるかもしれません。


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